「ねー、啓一郎ー」
ベッドに寝転がりながら私は口を開く。
流石に寝転がったままだと失礼だと思うから体を起こす。

私がベッドを占領してるせいで部屋の主の啓一郎が床に座ってるんだけどまあ気にしない方向で。

「どうした?」
「欲しい物ある?」
私の問いが唐突な上に直接的すぎたせいか、啓一郎が少し驚いた顔をしている。
「突然だな」
「いやほら、啓一郎誕生日じゃん?サプライズにしようかと思ったんだけど、何かいまいちプレゼントしっくり来なくてさ」
ケーキとか作ってもいいんだけど、啓一郎甘い物そんなに食べないし。
むしろケーキ作ると私が食べちゃうし。
「そうだな・・・」
じっと見つめられて少し居心地が悪くなる。
「その日一日空けといてくれ」
「え?」
いや、それはいいんだけどさ。
元から空けとくつもりだったし。
「・・・そんだけ?」
「ああ、それでいい」
思わず口を尖らせると、啓一郎が苦笑を浮かべた。


―――


「って言ってもなー」
あの後啓一郎は梅さんに頼まれごとをされたので、私は1人でデパートに来ていた。
「・・・何がいいかな」
人が多いデパートの中をうろつきながらプレゼントは何がいいかと唸る。
「啓一郎が好きなものってなんだろ。・・・猫?」
思い返すと私、啓一郎から色々貰ってるのに自分から何かをあげたことがない様な気がする。
ため息を吐きながらベンチに座る。
んー・・・お菓子は今まで何度もつくってあげてるし。
猫は好きだろうけど、猫グッズ渡してもな・・・うーん。
「あんま大きい物じゃない方が良いよなー」
ふと視線を上げると目に入ったアクセサリーショップ。
「・・・アクセサリーか」
そういえば啓一郎ってあんまそう言うの持ってないよな。
中を覗くとシンプルなものから装飾が多いものまで色々と置いてある。
「・・・ペアリング」
視界に映るペアリングに1人赤面する。
いやいや、ペアリング買ってどうするよ。
別に慌てる必要もないのに慌てて別の棚に視線を移す。
「あ・・・」
何の変哲もないレザーブレスレット。
「・・・よっし」
それを手にとって、別のコーナーに移動する。
「喜んでもらえればいいんだけど」
何だかドキドキするような、そんな感じがしてぎゅっとそれを握った。


―――


当日。
「・・・変ではないよね」
キャミソールにホットパンツ。靴は久しぶりにサンダルを履くことにしよう。
一応上には日焼け対策ってことで薄手の上着を着ておく。
うん、変ではないはずだ。
バイクに乗るとは聞いてないけど、一応動きやすい服の方がいいだろうと思ってスカートはやめておいた。
「白斗」
ドアをノックする音と一緒に名前を呼ばれる。
鞄を持ってドアを開けると啓一郎が立っているけれど、少し驚いたような顔をしている・・・ような気がする。
「・・・啓一郎?」
やっぱ服装変だったかな。
そんな変な格好したつもりはなかったんだけど・・・。
「じゃあ、行くか」
「え?あ・・・うん」
着替えた方がいいかとか思ってると啓一郎が踵を返す。
慌てて追いかけてそっと啓一郎の顔をのぞき込むと・・・

(もしかして)

少しだけ赤いような。
えーと、それってもしかして・・・?
(うっわ・・・なんだろ。凄い嬉しい)
夏の日差しが照りつけて暑いけれど、嬉しさでそんなのはどうでも良くなってくる。
「啓一郎、何処行くの?」
隣を歩きながら尋ねると、啓一郎の手が伸びてきて私の手を握る。
「行けば分かる」
「なにそれ」
ぎゅっと手を握る力を少しだけ強くすると、それに反応するように啓一郎の方も私の手を強く握る。


「動物園・・・!」
ま、前に来たのっていつだろう!
色々居るよね!?ライオンとかレッサーパンダとか!
思わずわくわくしてると、啓一郎がぽんっと頭を撫でる。
「行くか」
「うん!」
夏休みに入ったばかりということもあって園内はたくさん人が居る。
手は繋いだまま園内を見て回っていると、ふれあいコーナーという文字が見えて立ち止まる。
「・・・・・・啓一郎」
なんだろう。何が居るんだろう。
触れる動物だから何だろう。
ウサギ?ウサギか?
家は動物禁止だし、こういう所か白猫の空き地でしか触れないし。
「何が居るんだろうな」
「なんだろ。触れるくらいだしそんな大きい動物じゃないよね」
二人して柵の中をのぞき込むと、大量のモルモット。
「うっわ・・・何これ・・・可愛い・・・!」
手を伸ばすとわらわさと寄ってくる。
「啓一郎!これすっごい可愛い!ほら!!」
もふもふだ・・・すっごいもふもふだ・・・。
啓一郎もモルモットを撫でようとするけれど、何故かみんなこっちに寄ってくる。なにこれ。
「そういえば何でこれ柵が二つに分かれてるんだろうね」
「オスとメスで分かれてるみたいだな」
へー。
「・・・白斗」
「ん?」
名前を呼ばれたと思ったら手を引っ張られ、もう一つの柵の方に連れて行かれる。
「どうしたの?」
気にするな、と言って啓一郎がモルモットを撫でる。
こっちの柵の子達はやたら啓一郎に寄っている。
・・・おお、わさわさ寄ってきて何か可愛いな。
「あ、こっちの柵の子がメスなんだ。よかったね、モルモットにモテモテだよ」
相変わらず動物に好かれてるなあ。
空き地の白猫もそうだし、あのおばあちゃんちの猫たちもそうだし。
何故か苦笑を返されて、ぽんぽんと頭を撫でられる。
え?何?今の何?
「そろそろ次行くか」
頷いて立ち上がると、また並んで園内を歩く。
「あ、ほらほらあっち!パンダ!パンダいる!!」
と、その時向かいから歩いてきた人とぶつかってしまう。
謝ろうとした瞬間に、違和感。
「あっ・・・財布返せ!」
私が叫び声を上げるのと同時に男が走り出す。
よし、あのスピードなら追いつける。
・・・と思ったときには既に啓一郎が追いかけていて。
しかも私にちゃんと此処に居るように言うのは忘れないし。

(ちくしょー・・・)

ああもう、かっこいいなあ。
嬉しさで顔が緩みそうになるのを必死に隠しながら、私はひったくり犯を取り押さえた啓一郎を追いかけた。


――――


「・・・びっくりしたね」
「そうだな」
ベンチに並んで座って、息を吐く。
警備員につきだして、無事財布は戻ってきたけど。
「・・・帰らなきゃね」
太陽が沈みかけている空を見ながら呟く。
折角の誕生日なのに!デートだったのに!
文句言っても仕方ないけどさ。
「あ、そうだ。帰る前に・・・」
鞄を開けて包みを差し出す。
「まあ気に入るかは分かんないけどさ」
レザーバンドに小さな赤い石をつけたシンプルな物。
あんまり目立たないからいいかなーと。
「今日空けておくだけでいいって言っただろ」
「私があげたかったからいいの!」
それでも嬉しそうにしてくれてるから、私も嬉しくなってくる。
「名残惜しいけど帰ろうか。また動物園来ようよ」
今度は水族館もいいなあなんて考えながら立ち上がろうとすると、啓一郎にそれを止められる。
「・・・どした」
啓一郎は何も言わずにポケットから何かを取り出して・・・何故か私の足下に膝をつく。

何だこの状況は。

「・・・ん?」
足首に冷たい金属の感触。
「え、なに?何これ」
見るとブレスレットのようなものが足首に。
「え?えっ!?」
ワケが分からなくて啓一郎を見るけれど、啓一郎は何も言わずに私の手を取って立ち上がらせる。
「帰るか」
「ちょ・・・っと待ってって。こ、これは!?」

今日は啓一郎の誕生日であって私は何も関係ない。
でも啓一郎は何も答えてくれない。

「欲しいものはもらえたからこれでいいんだ」

そう言って私の手を引っ張る。

「有り難うな、白斗」







いちばんほしいもの
(その意味を知るのはもう少し先のこと)



―――
水瀬さんハッピーバースデー!
他の話の倍くらいの長さになりました。愛故にだ
メインになったのがアンクレット(足首に付ける装飾品)なんですが、Wikiでこれの意味を見たときにテンションが上がった結果がこれです。
動物園もいいけど水族館に行きたいです

後日談はまたいずれ書きたいですね



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