「数学教えて!」
前にも同じようなことを言われたような気がする。
苦笑しながら部屋に招き入れると白斗は慣れた様子でテーブルにノートを広げる。
ちらりと見えたそれがやはり真っ白なのを見て更に苦笑が漏れる。
白斗の隣に座ると白いノートと教科書をのぞき込む。
「どこが分からないんだ?」
「ここなんだけどさ」
そう言って白斗が身を乗り出す。柔らかいものが腕に当たるのに、一瞬硬直する。
白斗と付き合い始めて大分経った。抱きしめた事も何度もある。が、どうにも慣れない。
「・・・水瀬?」
訝しげな視線を向けられ、慌てて意識を集中させる。
「これは・・・ここの計算が間違ってるだろ」
「えー・・・、ここ何度も見直し・・・あ、ホントだ」
苦笑いを浮かべ、白斗はシャーペンを手に取る。
カリカリというシャーペンがノートをひっかく音が無言の部屋に響く。
テーブルに肘をついて、目を伏せる白斗を見る。
計算が行き詰まったのか計算式を睨んでいる。
耳にかかっていたプラチナブロンドの髪がさらりと落ち、それを鬱陶しげに払いのける。尖らせた唇にシャーペンの先を当てているのが妙に色っぽく見えて、目を逸らす。
普段の行動に少し子供っぽいところがあるためか、時折こういう表情を見せられるとドキリとする。
「ここの計算どうすればいいの?」
白斗が顔を上げてここ、とノートに指を滑らせる。
どうにもこの状況で緊張しているのは自分だけのようだ。啓一郎の心の内など知る由もない白斗は彼の方へと再度身を乗り出す。
一通り説明し終えると、白斗はまた座り直してノートにシャーペンを走らせ始める。
妙なところで恥ずかしがり屋な白斗に今の状況を聞かせたらどんな反応をするか。
(・・・課題どころじゃなくなるな)
苦笑するのは心の中だけに留めておく。
おそらく、顔を真っ赤にして微妙に距離を取ろうとするに違いない。それから距離を取ったことに対してのよく分からない弁明。
容易に想像出来る。
「よっし、出来た!」
どう?と小首を傾げながら白斗が啓一郎にノートを差し出す。
確認している間、白斗は体を伸ばしている。
それから
「腰痛いー」
べちゃりと机に突っ伏す。
「何してるんだ」
「だってずっと同じ体制だったから腰痛くて」
ゆったりとした動作で起き上がりながら白斗が言う。
「で、どう?どうだった?」
褒めてもらうのを待つ子供のような、そんな表情。
無性に笑いがこみ上げてくるのを必死に飲み込む。
「さっき言ったところだけ注意しておけば全然出来るだろ?」
「えー・・・言われるまで自分の間違いにきづ・・・」
ふいに白斗の言葉が途切れ、不審に思って隣に視線を移す。
驚いたような表情を浮かべる白斗と目が合う。
「・・・どうした?」
「え!?いや、そのっ・・・」
ゆっくりと白斗の顔に赤みが差していく。それに気を取られていて気付かなかったが、いつの間にか少し間が開いている。
「ご、めん。ちょっと近かったよね。いやあの、気がついたら何かこう近かっただけで他意はないっていうか、その」

(ほらな)

先ほど浮かんだ想像そのもの。唯一違うのはその反応。
赤くなった顔を見られないように俯いている。その照れようを見ていると、何故かそれが伝染してきて。
「いや・・・気にするな」
先ほどまでの緊張がまた戻ってくる。
「ほら、次はどれだ」
「え、あ・・・これ・・・」
ほとんど無理矢理その空気を切るようにそう言うと白斗はもぞもぞと座り直して次の問題を示す。




その一言を飲み込んで
(頼むからその顔は勘弁してくれ)(どうしよう、緊張して考えられない)





―――
水瀬さんに勉強教えてもらおうぜ第二弾。
二年生で付き合い始めた後の話。
やっぱり水瀬さんは生殺しっていう。



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