夕食も終わり、部屋に戻って寛いでいる時間。
コンコンとドアをノックする音が聞こえてきて啓一郎は立ち上がる。
「水瀬、居る?」
「・・・雪崎?」
ドアの向こうから聞こえてきた声に思わず首を傾げる。
ドアを開けると、白斗が課題のノートを持って立っている。
「お願い、数学教えて!」
ノートを小脇に挟むと白斗は顔の前で両手を合わせる。
本人が言うに、理数は壊滅的らしく、数学や科学の授業は苦痛以外の何物でもないらしい。
そんな白斗からすれば数学の課題はどうにもならないものなのだろう。
「そんなに必死にならなくても俺が分かる範囲なら教えてやるから。ほら、入れ・・・」
そこまで言って、ふと動きを止める。
生活の場、寮の中とはいえ時間はもう夜。自室に2人きりでいるのはどうだろうか。
「お邪魔しまーす」
慌てて食堂に行こうと告げようとするより先に白斗が部屋に入る。
「雪崎・・・」
「ん?何?」
首を傾げながら白斗が啓一郎を見る。普段結い上げている髪の毛も、もう風呂に入った後だからか下ろしている。
「いや、何でもない。・・・で、何処が分からないんだ?」
啓一郎が座る隣に白斗も座りテーブルにノートを広げる。
そこに広がるほとんど真っ白と言っていいノートに、隣に居る白斗を見ると白斗は思い切り目をそらす。
「・・・これ」
「だって分かんないんだもん・・・」
ぽつり、と白斗が呟く。
理数が壊滅的というのもこれなら納得がいく。仕方なしに教科書も一緒に開いて説明することにする。
「やり方はここの例題と同じだろ?」
「え?どれ?」
示したところが見えなかったのか、白斗が身を乗り出す。
右腕に白斗の体が触れるのに思わず硬直する。ふわり、と彼女の髪からシャンプーの匂いが香ってきて、思考が止まる。
「・・・ここだ」
平静を装ってもう一度指し示す。
「あぁ、これか!ちょっとこれ見てやってみる」
白斗が座り直したことに内心ほっとしたような、残念なようなよく分からない気持ちを覚えながら必死になって問題を解いている白斗を見る。
いくら白斗が男前だと言っても、背が高いと言っても、先ほど触れた柔らかい体の感触やシャンプーの甘い匂いが自分とは違う性別だと言うことを主張しているようで。
「キツいな・・・」
思わず声が漏れる。普段はここまで接近することを許さないというのに、どうしてこういうときに限ってとても近くにいるのか。
無防備な横顔に手を伸ばしたくなるがそこは理性で押しとどめる。
頼ってもらえてはいるが、啓一郎と白斗の関係は『同じ寮生』もしくは『クラスメイト』というもので。特別な関係でもなんでもない。
それでも、自分の所にこうしてきてくれるということは少し期待してもいいのだろうかと思ってしまうのが何となく悲しい。
「出来た!」
パッと表情を明るくさせながら白斗が顔を上げる。髪を下ろしているためか、何処か幼く見える。
「これでどうかな?」
問題を1つ解き終えたノートを啓一郎に渡しながら白斗が尋ねる。それを受け取り、計算式を確認する。
その様子を白斗は少し身を乗り出して見ようとして、そのたびに意識がそちらへ向かいそうになる。
「ああ、大丈夫だ」
「よかったー。解けなかったらどうしようかと思った」
胸に手を当ててほっとしたように白斗が笑う。
「こっちの問題はここの応用だろ?少し考えてやってみろ」
「あ、これの応用だったんだ。全然別の所考えた」
苦笑混じりの笑みに、ドキリとする。
真剣な表情でまたノートに視線を下ろす白斗の横顔をそっと見つめながら心の中でため息を吐く。





不純と言う名の純粋な気持ちは
(・・・生殺しだな)(え?何?何の話?)(・・・いや、気にするな)



―――
水瀬さんに勉強見てもらおうぜ!っていう話。2年生編で付き合う前の設定で
無自覚に近づきすぎてればいいよね。これが逆でも凄く萌えると思うんです
勉強ネタはもう少し別設定で書きたいのでまたいずれ



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