「うー・・・」
変なうなり声を上げながら、部屋の中をうろうろする不審人物―否、部屋の持ち主である白斗。
「あー!」
そうかと思うとベッドに倒れ込み、クッションを何度も殴りつけるという奇行に走る。
「どうしよう」
ベッドに顔を埋めたまま、白斗は小さくつぶやく。

―明日、一緒に出かけないか?

先ほど言われた言葉を思い出して、1人赤面するとさらにクッションを殴る。
「どうしよう、ほんとどうしよう」
2人きりで出かける、ということ。
「いやいやいやいや、デートとかそう言うんじゃなくて出かけるだけで・・・あれ?2人で出かけるのってデートなのか?」
考えれば考えるほど、頭がこんがらがってくる。
今まで赤の他人の異性とここまで接したこともなければ、2人で出かけるということもない。
恋愛経験のない白斗としては、自覚してしまうとどう接すればいいのか分からず意味の分からない発言を繰り返しては自己嫌悪、というループを繰り返してしまう。
「・・・どうしよう」
そして結局「どうしよう」という考えに戻っていく。
「いや、どうしようもこうしようもないんだよ。もういいって言っちゃったから今更無理とか言えないんだよ」
盛大に溜息を吐く。
誘ってもらったときに、脳内で大はしゃぎして二つ返事をした自分を、ぶん殴ってやりたい。
時間を遡れるのならば、間違いなく数時間前の自分を殴っている。
「仕方ない、腹をくくれ、雪崎 白斗!」
返事をしてしまったものは仕方ないし、誘ってもらえて嬉しかったのは事実だ。

だが、結局寝付けず一晩中ベッドをごろごろしてしまう。

「雪崎・・・大丈夫か?」
「な、何が!」
寝付けなかったのがバレたのかと、白斗の声が裏返る。
「いや、大丈夫ならいい」
そして投げ渡されたヘルメットをキャッチすると、ジッとバイクを見つめる。
「・・・何処行くの?」
そういえば行き先を聞くのを忘れていた。

(神様、昨日の私を殴ってください)

普段信じていない神にすら縋りたくなる・・・と言うよりも少し泣きたくなってくる。
「行けばわかる」
そう言って啓一郎が笑うと、白斗は少し顔を赤くしてあっそ、とそっぽを向く。
いつも振り回されてばかりだ。
(違うよなー。勝手に私がややこしくしてるだけ、か)
小さく溜息を吐く。
この学校に編入してきてから、ややこしい事態ばかりな気がする。
「準備出来たか?」
「あ、ちょっと待って」
慌ててヘルメットを被ると、いいよ、と返す。
啓一郎の後ろに乗ると、白斗は少し躊躇った後に腰に抱きつくようにしがみつく。
これで3回目だが、きっと何度乗っても慣れないだろう。
「行くぞ」
「分かった」
白斗が返すのとほぼ同時に、バイクが動き出す。
(何だろうなぁ)
胸が痛い。
(好き、か)
自分を後ろに乗せて、バイクを走らせているこの男は、一体自分の事をどう思っているのか。
一緒に出かけようと誘っている辺りで、好意をもたれているのは分かる。
けれど、異性に対する好意は2種類ある。

(友人としてか、それとも・・・異性としてか)

何故か泣きたくなって、抱きつく腕の力を強める。
(そうだよなぁ・・・私、好きなんだよなぁ・・・)
いつからそう思い始めたのかも分からないけれど、好きだ、と。

しばらくそうしていて、辿りついたのは街を一望できる高台だった。
「・・・凄い」
昨晩雨が降ったおかげで、空気が澄んでいる。
「来たかったのって、ここ?」
「あぁ、凄いだろ?」
そういって微笑む啓一郎を見て、白斗はそっぽを向いて小さな声でそうだね、と返す。
「元気、出たか?」
「・・・は?」
思わず振り返ると、それと同時に啓一郎の大きな手が白斗の頭を撫でる。
「〜〜〜っ!」
子ども扱いなのか、何なのか。
恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かる。
「別に、私元気だし!」
元気だった、と言うのが嘘と言うわけではない。
けれど確かに考え事をしていてボーっとしていることは多かった。
それで声をかけられても気付かずに心配をかけていた。

「白斗」

ふいにかかる真剣な声。
「え?ってか名前・・・」
「アンタが、俺らの助けを借りないでもやってけるほど強いのは知ってる。・・・けど、俺は心配なんだよ」
そっぽを向いた啓一郎の顔に朱が差しているのを見て、白斗もつられて赤くなる。
「・・・ありがと」
色々言いたいことがあるはずなのに、たったこれだけしか言えない。
けれど、その一言がすっと出てきたことに驚く。
(でも、今はこれでいいや)




(いつかきっと、素直になれるはず)





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