Memo | ナノ


わずかな靴音に、梨花は振り返る。
逃げ続け、走ってきたために乱れた呼吸を整える。

「秋沙・・・?」

いつもの明るい笑顔を浮かべた秋沙が、山道に立っている。
「ああ、よかった!無事だったんだね、梨花」
「何で・・・秋沙がここにいるのです・・・?」
何でって、と秋沙は目を伏せる。
「外から変な音がして、見てみたらキミが変な奴らに追われてるのを見たから・・・」
でも、と秋沙は顔を上げる。
「逃げよう。今ならアイツらも追ってこないから」
秋沙が梨花に近寄る。

「―――っ!?」

彼女が目の前に立った瞬間に走る激痛。
「な、にを・・・!」
見下ろすと、胸に突き刺さるナイフ。
白いシャツは溢れてきた血で赤く染まり始める。

「あーあ」

わざとらしいため息に、梨花は秋沙の顔を見る。
先ほどまで浮かべていた表情は何処にもなくなっていた。
口元を歪ませ、恐怖を感じるくらいに美しく笑う。

「ごめんねー。ホントは痛みを感じさせないように一回で殺すつもりだったのに。失敗しちゃった☆」

ナイフを抜き取り、刃に付着した血を人差し指でなぞる。
「アンタ・・・アンタは何なの・・・!?」
「んー・・・?」
くるくると手の中でナイフを遊ばせながら秋沙はチラっと梨花の背後に目をやる。

「あたしね、呪われてんの。あたしが産まれたときからずっと決められてる」

忌々しげな顔で秋沙は梨花を睨む。
「でも、このまま生きてくつもりなんかないから。何度世界を繰り返したって、あたしは呪いを解いてみせる」

『何度世界を繰り返したって』

思わず梨花は息を呑む。
「大丈夫だよ。キミはここで死んだって別の世界でやり直すんだから。あたしだってそう」

鈍い音がして、ナイフが再度胸に刺さる。

「何度だってやり直す、何人だって殺す、何だって利用する」

倒れた梨花を見下ろし、秋沙は明るい笑みを浮かべる。

「さーてと、別の世界に行くんでしょ?あたしも行くよ?準備しなきゃなー。毎回毎回死ぬのは慣れないなー。でも死ななきゃ別の世界にバトンタッチできないし」
凶器になったナイフを抜き取り、ハンカチで血を拭く。

「明日の新聞の見出しは大変だなぁ」

まるで他人事のように呟いて秋沙は踵を返す。

「後何回繰り返せばいいんだろ」



不変の凶刃




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