Memo | ナノ



「あたし、君の事好きだよ。だから、あたしの事好きにならないでね」
隣に座る金色の髪はそう言ってにこりと笑う。
告白だというのに締まらないのは後半の台詞のせいか、彼女が浮かべる薄ら笑いのせいか。
黒い髪は不思議な生き物を見るように彼女を見る。
「何なんだお前は」
「何でって」
彼女は考え込フリをして芝居がかった仕草で肩をすくめる。
「何でかな。忘れちゃった」
ニコニコと笑う彼女はいつだって胡散臭い。
彼から目を逸らした彼女はふいに真面目な顔を作る。
「あたし、大切な人の為に命を賭けられる君を好きになったんだよ」

だから好きにならないで、と。

「そうじゃなかったらわざわざ運命に抗おうなんてしないよ」
ある意味で彼女は被害者なのだ。
自分達を見捨てれば彼女は今も生きられた。
こんな事に巻き込まれ無くてよかったはず。

「後悔なんてしてないよ」
まるで見透かされたかのような言葉。
彼が彼女の方を見ると、昔見た顔で笑っていた。
「きっと、何度繰り返したってあたしはこの道を選ぶから」
でも、と彼女は眉を下げる。
「出来ればあの時、君の事助けたかったかな」
本当に困ったような顔に何も言えずに、彼はお前はバカか、と小さく悪態をついた。

―――
刃に体を貫かれた彼女は薄く微笑み、音に出さない声で「有り難う」と囁く。
彼女の体から流れた赤は彼の手と世界を染める白を汚した。
彼女は震える手で彼の肩を押す。
いとも簡単に彼女に刺さった刃は抜け、彼女は仰向けに倒れた。
彼は、それを夢を見ているような感覚で呆然と見守っていた。
自分と同じ人格を持った剣も、彼も・・・自分と同じ気持ちなのだろうか。
雪がちらつく世界で、彼女の体から流れた赤と、彼女の赤い髪だけが酷く眩しい。

「なんで」

弱々しく呟く。
彼女は、敵だった。
それだけの話だ。
失っていた記憶を取り戻して、彼女は仕方ないねと笑って敵になった。
わざとらしく彼らを挑発し見下したように情報だけを与えて。
彼女は彼らの為に自ら死んだのだ。
震える声で彼女を呼んでも反応はない。
死んだ。殺した。

(戦争だから)

彼女は敵側の人間だった。
それだけの話なのだ。
「剣、回収するわよ」
物言う剣の開発者はそれだけを言うと彼女が握っていた剣を回収する。
「あいつらには黙っといてあげるから、どうにかしてあげたら?」
言葉を喋るのも億劫になって、彼は頷く。
彼女は、素性はどうあれ最期まで彼らの仲間であることを貫いたのだ。
膝をつき頬に触れると既に冷たくなっている。

「有り難う」

音のない声が耳について離れない。

―――
彼女の体から流れた血が、刀身と彼の手を赤く染めた。
聞こえた悲鳴はかつて仲間だった男達のものだろう。
『なんで』
物言う剣が呆然と、呟く。
それは彼も言いたいことだった。
どうして、わざと刃を受けたのか。
彼女は苦痛に顔を歪ませながらも自身が持っていた剣を地面に落として彼の肩を押した。
呆気なく刃は抜け溢れた血は薄暗い洞窟の床まで流れる。
「時間が、ないのよ・・・」
貫かれた箇所を庇おうともせず彼女は彼を突き飛ばそうとするがそれは失敗に終わる。
金色の髪の男が彼女の名前を叫びながらこちらへ駆け寄ろうとした瞬間、轟音と水音。
あっという間に彼らは入り口の方へ流されていく。
「・・・」
呆然と彼女はそれを見る。
「お前・・・どうして・・・」
「何でだろうね」
にやり、と彼女は唇を歪ませる。
「ただ・・・抗ってみたかっただけだよ」




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