Memo | ナノ


「ああ、居た」
あの役無しはもう既に汚れている。
殺せばグリーフシードを落とすだろう。
とんとんっと爪先を鳴らせば私の服は瞬時に魔法少女の戦闘服へと変化する。
スカートの裾を持ち上げるとフリルで溢れたその中からはマスケット銃。
かつて私の友人だった魔法少女が使っていた武器。
それを持ちビル3階分くらいには相当するであろう屋根から飛び降りて、役無しを打ち抜く。
的確に頭を打ち抜かれた役無しはそのまま時計とグリーフシードを残して消え去る。
こつこつとヒールを鳴らしてグリーフシードを拾い上げようとして、聞こえた銃声に跳ね上がる。

(グリーフシードは無事)

手の中のグリーフシードを見ながら私は建物の壁を垂直に走る。
魔法で身体能力を強化すればこのくらい容易い。

(・・・またか)

ため息を吐きながら屋根の上に立つとマスケット銃を魔力へと戻し次に剣を取り出す。
これもまたかつての友人が使っていた武器だ。
登ってきた壁を今度は垂直に駆け下りる。
そのままの勢いで今銃弾を撃ち込んできた男・・・否、ウサギの首に細い剣先を突き付ける。

「こんにちは、エリオット」

そして私は友人に話すようなフランクさで彼に声をかける。

「うちのモンに何の恨みがあんだよお前は」
「ん?ああ、彼の事?」

そう言えば彼は帽子屋屋敷の使用人の服だった。
よく確認しておけばよかった。

「時計は盗ってないよ」
「そういうことじゃねぇ!」

ガキンと音がして細い剣が折れた。
どんだけ馬鹿力なんだろう。
エリオットが拳銃を振るったら当たったらしい。
私は盾から普通の拳銃を取り出してエリオットに突き付ける。
私の武器はかつての友人達を模したものだ、弓も、銃も、剣も、槍も、盾も。
私にはもう関わる事は出来ないけれど、私は彼女たちが大好きだった。
みんな、居なくなってしまったけれど。

「彼、汚れてたから」

きっともう少しで狂ってしまうくらいに。
この世界ではグリーフシードは人を狂わせる。

「大丈夫だよ。今は帽子屋と契約してるから。利害が一致する間は貴方たちは傷つけない」

まぁ、利害が一致しなくなったら契約は切れるんだけどね。
それは言わない。
チッとエリオットは舌打ちする。

「じゃあこれはもらっていくね」

グリーフシードを盾に仕舞い、私は跳び上がる。
ああ、また死ねなかったなぁ。
きっと、願いのせいで死ねないんだろうけれど。



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