雨を過ごす
―――

「雨だなぁ」
雨を降らせる薄暗い空を見上げてため息を吐く。
今は6月だ。梅雨だ。分かってる。
分かっていてもデートの予定が潰されてはテンションも下がる。
「デートならまた出来ますよ」
「分かってますけどー」
メガネを外した涼平がにっこりと微笑んでいるのを見て何となく絆される。
「僕としては」
涼平の手が伸びてきて私の頬に触れる。
「あなたを独り占めできて嬉しいですけどね」
涼平の言葉が上手く飲み込めなくてぽかんとする。

え、えぇー・・・。

何だかその言葉が気恥ずかしくて思わず俯く。
「気障」
嬉しいくせに、口からついてでてくるのは照れ隠しの言葉。
涼平はクスクスと笑うと私を抱き寄せる。
「気障でもいいです。あなたを独り占めできるんだったら」
「・・・・・・じゃあ、雨に感謝しなくちゃですね」
単純だなぁなんて思いながらキスを受け入れる。

涼平を独り占めできるなら、雨の日もいいかもしれない。

―――

「凄い雨ですね」
凄い音を立てて降り続く雨を眺める。
「明日の朝まで降るそうですよ」
え!?と思わず振り返ると石神さんが天気予報は見なかったんですかとソファに座りながら言う。
「・・・・・・見てませんでした」
折りたたみの傘は持ち歩いてるけど、この土砂降りだと折りたたみ傘なんて役に立たなさそう。
・・・濡れるの覚悟で走るしかないかな。
「泊まっていくか?」
「え・・・?」
そんなことを考えていたときに突然言われて、ポカンとする。
「こんな雨の中帰せる訳ないだろう」
「あ、あの、有り難うございます」
やっぱり石神さんは優しい人だと思う。
石神さんの隣に座り直して、何てこと無い会話をしているととても幸せだと思う。

「止まなければいいなぁ」

そうしたらずっとこうしていられるのかな、なんて思っていたら自然とそんなことを呟いていた。
ふいに石神さんの手が伸びてきて、抱きしめられる。
痛いくらいに抱きしめられて、わたしはそっと目を閉じる。
今だけは、この雨が続いて欲しい。

―――

雨ともなるとやっぱり客足は多くなくて。
「暇でしたねぇ」
黒狐の2階で昼食を取りながら、ぽつりと呟く。
今日もいつものように集さんの手伝いをしていたけれど・・・客足が少なすぎて手伝いいらなかったんじゃないかって思う。
「ま、こんな日もあるよ」
ははは、と集さんが笑う。
・・・笑い事かなぁ、これ。
でも普段忙しいから・・・たまに、ほんとたまにならこういう日があってもいいかもな、なんて思ってしまうのも事実で。
「ごちそうさまでした」
うーん・・・やっぱり集さんが作るご飯は美味しい。私ももっと料理頑張らなきゃなぁ。
お皿を片付けて2階に戻る。
「雨、止みませんね」
集さんの隣に座りながら窓の外を眺める。
「雨嫌い?」
集さんに問いかけられて考え込む。
「あんまり好きじゃないですけど・・・集さんとゆっくり出来るから、今は好きです」
集さんの肩に頭をもたれかけさせて、そう言うと隣で集さんが照れたのが分かった。
「そういうこと言っちゃうかな」
「だって本当のことですから」

集さんと居ると、嫌いなものも好きになれるかもしれない。






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