■■■ ――― 「春だなぁ」 海の上を走る風に暖かさが混じり始めて、思わずわたしは呟く。 まだ明け方や夜は寒いけれど、日が出ている間はコートを着ていては暑いくらいだ。 「そろそろ桜の季節だなー」 基本的にはヤマトの花だから他の島では見られないから・・・きっと今年は見られないだろうなぁ。 毎年楽しみにしてたけど今回ばかりは仕方ない。 「桜か。ヤマトの花だったな」 「わ!船長いつの間に居たんです・・・ってお酒くさっ!」 まだ昼間なんですけどねぇ・・・。凄いお酒くさい。 「っていうかお酒!隠してたのに!」 「はっはっは、細かいことは気にするな」 ぐりぐりと頭を撫でられる。 「それより、桜が見たいのか?」 「毎年見てたから・・・今年は見られなくてちょっと残念かなーとは思ってましたけど・・・」 それを聞いた船長が声を上げる。 「よし、お前ら。ヤマトに向かうぞ!」 「えええ!?急にどうしたんですか!」 船長がニッと笑う。 「見たいんだろ?」 わたしのため。 何だか胸の辺りが暖かい。 「はい!」 きっと、みんなと見られたらもっと楽しいんだろうなぁ。 ――― 「わぁ、タンポポ咲いてる」 黄色くて小さな花が、川原一面に咲いている。おお・・・何かこう・・・可愛らしい光景だ。 「春やなぁ」 「春ですねぇ」 天王寺さんと並んで歩きながら(二人して柄にもなく)ほのぼのする。 「・・・タンポポ、か」 「食うなよ」 「一応食用らしいですよ?ネットで調べると普通にレシピ出てきますもん」 天ぷらとかお茶とか。 後つぼみの状態だと酢の物にも出来るらしい。 隣で天王寺さんがため息を吐く。 「ほんまにお前は食うことになると生き生きすんな」 「食べるの大好きですからね!あ、でもちゃんと見るのも好きですよ」 お花見宴会とか楽しすぎて。飲めるし食べられるし。 「花より団子」 「バレましたか」 二課はお花見するのかな。やるんだったら・・・桐沢さんの男の料理が楽しみだ。 「平和ですねー。まったく、こんな時に下着泥棒だなんて女の敵め」 立ち止まってしゃがんで、タンポポを1つむしる。 「天王寺さん、さっさとへんた・・・じゃなくて犯人逮捕してお花見しましょう!お団子食べましょう!」 「・・・せやな。ほれ、ならさっさと急げ!」 ――― 「去年はみんなでお花見やったんですよ」 街中。たまたま黒澤さんと鉢合わせになり、色々と盛り上がっていたらいつの間にかお花見の話になっていた。 「みんなで、ですか?」 「はい。桂木班のみなさんと桃田部長。後石神さんと後藤さん・・・」 あの2人も!?と黒澤さんが驚いたような声を上げる。 ・・・うーん、お花見と結びつかないのかなぁ? 「でも、楽しかったですし・・・。石神さんも、後藤さんも楽しんでたと思いますよ?」 そう言うと、黒澤さんは楽しそうに笑う。 「そりゃあそうでしょうねぇ。・・・貴女が居たんですから」 「? 何か言いました?」 いいえ、と黒澤さんはまた笑う。 「でも、お花見に参加してた石神さんと後藤さん、見てみたかったですけどね」 「今年もやりましょうよ、お花見!もちろん黒澤さんも一緒に」 黒澤さんが居たら去年よりもっと盛り上がりそう。 「え、オレもいいんですか?」 「もちろんですよ。大勢の方が絶対楽しいです」 そう言って笑うと、黒澤さんもそうですよね、と言う。 「じゃあオレが頑張って石神さんと後藤さんを引っ張ってこないといけないですね」 「ふふ、去年は桃田部長に引っ張られてきたみたいですからね」 「あ、そろそろ行かないと怒られるな。じゃあ、今度はお花見で会いましょう!」 冗談めかして黒澤さんが言うのに、そうですね!とわたしは返した。 |