51 寄り添う 執筆者:tm


「うおおおお!すげえええ!」
「ねー!」


飯盒炊飯を終え、自由時間をトランプで潰した後、ハルのトランプタワーを倒したことにより旅館内を逃げ回っていた心宿が女将さんに怒られている頃。生徒たちは自然の家の近くの、大きな広場に来ていた。行く途中は「心宿まじざまああ」や「シャシャシャシャシャ」と会話をしていた生徒たちだったが、今は目の前でごうごうと燃え上がる大きな炎に目を奪われ、心宿のことなんて既に忘れていた。

今日は、この広場でキャンプファイヤーが行われる。キャンプファイヤーとはいいつつも広場には出店が並んでいて、どちらかといえば少し早いお祭りのようなものだった。


「えー、こんなことなら飯盒炊飯せずにこっちで食べ歩きしたかったー!」


不満そうに言うマリ、皆がうんうんと頷く。いつもなら「心宿のせいだ!」と必ず誰かが言いだすが生徒たちは心宿の存在を忘れている。誰のせい、と会話が発展することもなく皆集団で行動しながらも出店を覗いていた。


「誰か金魚すくいで勝負せえへん?」

「受けてたとう」

「受けてたとう」

「受けてたとう」


翼宿が持ちかけた勝負を買って出るように後ろからまず出てきたのはハル。そしてそれに続いてでてきたのは言うまでもなくマリとユカだった。同じ台詞を言いながら同じようにぬう…と出てきた三人に「なんで同じやねん!」とつっこみをいれながら翼宿はポケットから小銭を取り出す。


そして数分後…


ビチビチッビチチチッ


『……』


唖然とするB組メンバーの前にドヤ顔で立っているのはハル。そんなハルが持つ、金魚すくい用のカップの中には…


「…それ何匹入ってるの?」
「37匹」
「…それどーするのだ?」

「…おっちゃーん、焼きそばと一緒にこれもお願いしやーす」


苦しそうにビチビチと音を立てる、金魚たちの塊であった。
金魚すくいの店の隣に出店を出している焼きそば屋に金魚を持っていこうとするハルをB組メンバーが必死でとめる。

そして次に現れたのはマリだった。マリのカップの中には10匹前後の金魚たち。
これもこれで凄いが、隣にもっと気持ち悪いのが居るため特に目立たなかった。

そしてお次に姿を現したのはユカ。ぴちぴちと跳ねる金魚の音がしない、がユカは清々しい顔で立っている。もしかして0か?と鬼宿が覗きこんだ、その先には。


「ど う し て こ う な っ た」
「えへへっ」


その先には、半身を失くした金魚の残骸だった。頭だけの亡骸が、幾つもユカのカップの中に浮いている。


「な、なんやねんこれ!おっちゃん!頭がない金魚がういてんねんけど!?」
「…お墓、作ってあげんとな…」


がっくりと肩を落とした店のおじちゃんを慰めるように、寄り添ったおばさんがB組生徒の心に思い出として焼き付けられた。



***
金魚「解せぬ」

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