48 忘れる 執筆者:tm


ぐぅうう、生徒全員で心宿へブーイングしている途中、不意に誰かのお腹が鳴った。


「ごめん、自分ー」

「もーユカ、色気ないなぁ」

「だってお腹すいたし」


そう言われて見れば昼間のバーベキュー後、沢山遊んだにも関わらずまだご飯を食べていない。
ユカに続く様にぐぅう、きゅるる、など皆のお腹が大合唱を始めた。
大好きな生徒全員からの数十分にわたるブーイングが結構応えたのか、涙目だった心宿は涙をぐしぐしと拭うといきなりドヤ顔になる。


「ふふ、こんなこともあろうかと飯盒炊飯をするための、」
「皆飯盒炊飯しよー、こんなこともあろうかとうち、野菜とか持ってきてたんだよねー!」

「おぉお!さっすがハル、準備いいねーっ」

「でっしょー?」

「…グスンッ」

「ハンッ」


大人げない心宿先生、という汚名をせっかく挽回できるチャンス。
それにも関わらずハルにそのチャンスをあっさり横取りされた心宿。
そんな心宿は自分の家で育てた野菜を抱きかかえて隅の方で体育座りをしていた。


「…先生泣くなやみっともない」

「泣いてないもん!汗だもん!」

「なんやねん気色悪い!」


翼宿に慰められたことが嬉しくてついつい調子に乗りツンデレを演じた心宿。
だが翼宿に気色悪がられるという結果に終わり心宿はまた涙を流した。

さてそんな心宿も置いておき楽しい楽しい飯盒炊飯タイム。
まず野菜を切る担当は男子達だ。


「なあ井宿」

「?」

「これくらいのおべんとばこにおにぎりおにぎりちょっとつめて♪っちゅう歌あるやん?あれの続きってなんやっけ」

「…おいらもその部分しかしらないのだあ。というか一体何で?」

「いやあ、ふと思い出してな。なー星宿、鬼宿ー」


おべんとうばこのうた、の歌詞を翼宿が聞きまわるが皆首をかしげるばかり。
よほど気になるのか翼宿は道具の準備をしている女子たちにまで聞きに行った。


「なあユカ、かくかくしかじかなんやけど」

「あー、自分分かるよ!」

「ほんまか!?ちょっと歌ってくれへん?」

「〜おべんとうばこのうた〜
ボーカル:塩羽ユカ

おべんとばっこに、あじしおあじしおちょっとつーめて♪
きざーみ…ウフフ…にごましおふって♪
あじしおさん、あじしーおさん♪」

「ちょお待て!塩しか弁当箱にいれてへんやん!
というかきざみの後なんでわろたん!?」


怪しげに笑うユカのとこを離れて、次に翼宿が向かったのはマリとハル。
二人は翼宿とユカの会話を聞いていたのか既にスタンドマイクを準備して待っていた。


「なんでそないに準備満タンやねん!」

「〜おべんとうばこのうた〜
ボーカル:寿限夢ハル」

「てかそのボーカルとか題名とかいらへんから。というかハルそんな名字やったん!?」

「これっくらいの、おべんとばこに、おにぎりおにぎりちょっとつめて♪
きざーみ白米、ゴマ塩振って♪
玄米さん、麦米さん」

「ご飯しかつめてないやんけ!」


なんて翼宿の的確なつっこみを聞くとハルは「お後がよろしいようで」と一礼し後ろに下がった。


「〜おべんとうばこのうた〜
ボーカル:マリ=ナイブンピツ=ケイ」

「ちょお待て、名前可笑しくない?内分泌系?」

「これっくらいのお弁当箱に、お弁当箱お弁当箱ちょっと詰めて♪
刻み弁当箱にお弁当箱ふって♪」

「弁当箱連呼しよるだけやんけ!何お前ら、そのネタやりたかっただけか!?」


なんて翼宿の突っ込みに二人はにやりと笑うと自分たちの作業に戻って行った。


「まともなやつおらんわ…!あとは美朱…、」


くるり、翼宿が振り返る。
するとそこにはおべんとうばこのうたを熱唱している心宿。


「…俺は何も見てへんぞ!」


そう自分に言い聞かせると翼宿は野菜を切りに自分の持ち場へと戻った。

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