45 振られる 執筆者:tm
楽しい昼食も終わり、B組生徒はまた海や砂浜ではしゃいでいた。
一名をのぞいて、だが。
その一名に気がついたユカは不思議そうに首をかしげながらその者のもとへと歩く。
「ハルー?泳がないの?」
「んーちょっと重傷者が、ね。」
ハルは皆の荷物がまとめられているパラソルの下でグラサンを掛けてふっ、と哀愁を漂わせて笑って見せる。
そんなハルを見てユカは何こいつ、と思いながらも目をぱちくりさせた。
「重傷者ぁ?」
「うん。てかグラサンに気がついてよ、結構かっこいいっしょ?」
「はいはいワロスワロス」
「死ね」
ハルが指差す先、その先にあったのは水色のウォークマンだった。
よくみればそのウォークマンには水を拭いた跡がある。
状況を察したユカはあぁ、と頷きハルの隣に座った。
「海に落としたの?」
「うん。水着用の短パンのポケットに入れてたこと忘れてて、思いっきりドボンッとやっちまったぜ」
「うわー、もうそれ駄目なんじゃないの?」
「いや、隣のクラスの友達のねじ子って子がね?ウォークマン水に落としたら日光浴させたらいいよ!って言ってたから」
ほお、と頷きユカはもう一度ウォークマンを見やる。
タオルの上に置かれ燦々と日光を浴びるウォークマンは確かに日光浴をしていると言えよう。
いつか光合成しだすかなあ、なんてボケるハルを鼻で笑い、皆がいる砂浜のほうを見やった。
「結構人、増えてきたねー」
「ほんとだねー、誰かナンパされてるかもよ」
「心宿先生とか?」
「心宿先生がナンパとかされてたら多分明日血の雨がふるねー」
「えげつなっ」
なんて話していると一人の男性がなんと、B組の女子生徒に話しかけてるではないか。
おぉ、と身を乗り出すハル、太陽の光で良く見えないのか、ハルにスペアのグラサンを借りてユカも身を乗り出す。
よく見ると話しかけられているのはマリ。
「あれ大丈夫なの?」
「さあ…?」
そしてそのマリに話しかけている男の後ろからビーチボールを高く上げて思いっきり振りかぶるさっちー。
バシンッ、と乾いた音が響き、男が逃げて行ったのは言うまでもない。
それを見て腹を抱えて笑う二人、その二人に一つの影が落ちてくる。
「茶取ってくれや」
「おぉっと嬢ちゃん、此処はハードボイルド以外立ち入り禁止だぜ」
「だぜ」
「俺らに惚れると火傷するぜ」
「ぜ」
「…何や、コントの練習かいな。しかも俺嬢ちゃんちゃうし!はよ茶、取ってくれや!」
「はいはい、一杯五万円ね」
「高、なにそれ高っ」
「何いってんの!
最高級のお茶を作る田村さんの弟子の家の隣の中井さんの親戚の子供の友達のそのまた友達の村上君のおじいちゃんが沸かしたお茶だよ、その値段じゃ安いくらいだって」
「あぁ、ほうか…って何やねん!村上君のおじいちゃんとか果てしなく普通の人やないか!田村さんとどう繋がりがあんねん!ってそんなドヤ顔すなや!」
なんてくだらないやりとりをしながらも二人は結構満喫しているようだった。
そして翼宿と入れ換わるようにして次にやってきたのは心宿。
心宿も翼宿と同じようにお茶を取りに来たらしい。
「お茶をとってくれ」
「はい、あ、先生。あそこのないすばでぃーなお姉さんが先生のこと聞いてきましたよ。」
「そうそう、自分たち聞かれたんですよー。」
「…そうか」
ユカが指差す先、そこにはビキニを着た確かにナイスバディーなお姉さん。
心宿はにやり、笑うと「皆には内緒だぞ☆」と言い残してその人の処へ走っていった。
それを見てユカとハルは笑いながらハイタッチを交わした。
「やぁ、子猫ちゃん、私に何か用かい?
あ、先に言っておこう。
…私に惚れると、火傷しますよ」
さらり、心宿が自慢の金髪をなびかせる。
「何こいつ気持ち悪い!近寄らないで!」
バシンッ、その音と共に心宿の頬にはくっきりした手形がついたのは、言うまでもない。