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夢に見る蜜夜を見つけた時、雑渡は狼隊小頭として働きを認められつつある頃だった。
見つけたというよりは、現れたというのが正しいかもしれない。もともと蜜夜は雑渡の兄の許嫁だった。しかし兄が小さい頃に病で亡くなり、許嫁の話も宙に浮いていたのだが雑渡が皆に認められるようになると向こうがまた望んで蜜夜を差し出してきた。
遠目に見る蜜夜は愛らしい娘で、キラキラ輝く星空のような目にドキドキしたが、雑渡を見るなり汚物でも見てしまったように顔をしかめたので唖然とした。
「あのような者と夫婦になるなんて、考えるだけで虫酸が走る」
確実に雑渡に向けた言葉だろう。一緒にいた山本がギリギリと奥歯を鳴らしながら、飛び出そうとした高坂を抑えている。
「下賤のものに娘を差し出すなんて、やはり父上は母上のいうとおり阿呆なのだわ」
本当に嫌なのだろう。わあっと声をあげて蜜夜は泣き出し、乳母が慰めている。
「陣内。あの子、なんで泣いてるんだろうね」
「……自分を憐れんでいるんだろう」
「昆奈門さまほどのお方に嫁ぐのに、何を憐れむというのです」
高坂の声は怒りで震えていた。人間というのは、腹が立っていても自分以上に腹を立てる人間が同じ側にいるとわかると怒りが薄れてしまうものなのだと初めて知った。
その晩、雑渡は一人蜜夜の部屋を訪れた。眠っている蜜夜の隣に男がいるのを見て、どうして蜜夜があれほど嫌そうな顔をしたのかわかった。
綺麗な顔をした優男だ。間抜け面で寝ている様子から、侍ですらないのは明らかだった。
(嫁入り前なのに、娘が男を引っ張りこんでもいいような家なのか)
正直残念だった。夢で見る蜜夜を、何もかもに正しく道徳的で、天女のような女だと思い込んでいたからだ。
(でもまだ若いんだ。わたしが教えてあげればいいんだ)
祝言の日、花嫁行列の中にあの男がいた。なんども二人視線を交わし、二人で逃げる隙を伺っていたようだ。
「蜜夜さま。今宵は趣向を凝らしての宴ですよ」
喜ばせようと必死だった。
「蜜夜さまのお好きなものはすべてあります」
こっちを向いて微笑みかけてくれればそれでよかった。
「お望みならなんだって」
「お前、その気持ち悪い目にあたしを写さないでよ。それが唯一の望みだわ」
好いた女にここまで嫌われるなんてあるだろうか。雑渡は蜜夜に何かしたわけでもない。
蜜夜は部屋に閉じこもり、話すことはおろか顔を見ることさえかなわない。夢で見る彼女はとてもやさしく名前を呼んでくれるのに。
夢に見る蜜夜を見つけた時、雑渡は狼隊小頭として働きを認められつつある頃だった。
見つけたというよりは、現れたというのが正しいかもしれない。もともと蜜夜は雑渡の兄の許嫁だった。しかし兄が小さい頃に病で亡くなり、許嫁の話も宙に浮いていたのだが雑渡が皆に認められるようになると向こうがまた望んで蜜夜を差し出してきた。
遠目に見る蜜夜は愛らしい娘で、キラキラ輝く星空のような目にドキドキしたが、雑渡を見るなり汚物でも見てしまったように顔をしかめたので唖然とした。
「あのような者と夫婦になるなんて、考えるだけで虫酸が走る」
確実に雑渡に向けた言葉だろう。一緒にいた山本がギリギリと奥歯を鳴らしながら、飛び出そうとした高坂を抑えている。
「下賤のものに娘を差し出すなんて、やはり父上は母上のいうとおり阿呆なのだわ」
本当に嫌なのだろう。わあっと声をあげて蜜夜は泣き出し、乳母が慰めている。
「陣内。あの子、なんで泣いてるんだろうね」
「……自分を憐れんでいるんだろう」
「昆奈門さまほどのお方に嫁ぐのに、何を憐れむというのです」
高坂の声は怒りで震えていた。人間というのは、腹が立っていても自分以上に腹を立てる人間が同じ側にいるとわかると怒りが薄れてしまうものなのだと初めて知った。
その晩、雑渡は一人蜜夜の部屋を訪れた。眠っている蜜夜の隣に男がいるのを見て、どうして蜜夜があれほど嫌そうな顔をしたのかわかった。
綺麗な顔をした優男だ。間抜け面で寝ている様子から、侍ですらないのは明らかだった。
(嫁入り前なのに、娘が男を引っ張りこんでもいいような家なのか)
正直残念だった。夢で見る蜜夜を、何もかもに正しく道徳的で、天女のような女だと思い込んでいたからだ。
(でもまだ若いんだ。わたしが教えてあげればいいんだ)
祝言の日、花嫁行列の中にあの男がいた。なんども二人視線を交わし、二人で逃げる隙を伺っていたようだ。
「蜜夜さま。今宵は趣向を凝らしての宴ですよ」
喜ばせようと必死だった。
「蜜夜さまのお好きなものはすべてあります」
こっちを向いて微笑みかけてくれればそれでよかった。
「お望みならなんだって」
「お前、その気持ち悪い目にあたしを写さないでよ。それが唯一の望みだわ」
好いた女にここまで嫌われるなんてあるだろうか。雑渡は蜜夜に何かしたわけでもない。
蜜夜は部屋に閉じこもり、話すことはおろか顔を見ることさえかなわない。夢で見る彼女はとてもやさしく名前を呼んでくれるのに。