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凄腕
初音 綾部喜八郎の姉
卒業後に凄腕と結婚
忍の家に生まれたからには、いろいろと制約されることが多くある。いや、他を知らなければそう思うこともないだろう。ただ初音は他を知ることになっていた。
忍術学園への入学は、祖父が大川平次渦正と知り合いで新たに作ったくのいちを育成する教室に生徒が集まらないということで授業料をまけてもらって入学することになったからだ。
行きたくないと家族に言ったのは結婚も決まっていたからだ。夫になる男は忍で、どちらかといえばくのいちよりも妻や母に求められるようなことを勉強するべきだと思っていた。
「お前の言いたいことはわかる。だがおじじさまの知り合いなのだ。しょうがないだろう」
父はそういい、母と顔を見合わせる。
「良い機会よ。くのいちの心得なんてそうそう他所で教えてもらえるものじゃないし」
いつもぽやーっとした物言いの母はそういって父にお茶を渡している。母の傍らには母にそっくりの弟がいて、母の袖にじゃれついている。
「初音の様子を見て、喜八郎も入れようかねえ」
「喜八郎は長男よ。おとっちゃんのそばで覚えさせた方がいいわ」
「おとっちゃんは仕事でいないことの方が多いわ。おじじさまもそうでしょう」
忍なのだから、仕事の内容までは知らない。小さい頃は、帰宅した父や祖父がまったくなんの匂いもしないことを不思議に思っていた。人を殺めているのだと知ったのは、幼なじみの男の子が得意げに父親の話をしていた時だ。
「おとっちゃんは敵をやっつけて帰ってきたんだ」
「やっつけて?」
「おうとも。刀に血がべったりついてた」
刀に血がつくような状況だ。殺し合いになったのだろう。そして幼なじみの父は殺して勝った。
ふと、自分の父や祖父もそんな状況になって殺したことがあるのかと思った。
(帰っておっかちゃんに聞いたんだっけ)
なんとなく、自分の家族が人の道にそれたことをするとは思わず生きてきた。人を傷つけてはいけないと言われて育ったし、祖母が死んだ時そのうちにいつか自分も死ぬのかと知って恐ろしかった。
死ぬのは恐ろしい。だから人を殺すのも恐ろしいと直結して考えた。
「おっかちゃん。おとっちゃんは人を殺めたことがあるの?」
「あるよ。仕事だもの」
即答した母は、生まれたばかりの弟に乳をやりながら朗らかに答えた。
「うちの家系は力自慢が多いからね。戦働きではお殿様にご褒美をいただくこともあるんだよ」
「でも人を傷つけてはいけないって」
「仕事だからね」
受け入れるのは大変だった。仕事だから何をしてもいいのかと思ったのだ。母はふくれる初音の頬を指でつついて笑った。
(それでどうしたんだっけ。結構すぐにそれはどうでもよくなったんだ。村が戦に巻き込まれたから)
しまったと思った時にはもう遅く、村の一番外側にあった幼なじみの家ではその時在宅中だった母親ら三人が切られて死んだ。
初音の目の前での惨劇だった。背中をざっくり切られた幼なじみは、初音をかばって死んだも同じだ。
断末魔が耳の穴の中で反響している。逃げなければと思ったが、足がもつれて動けなかった。
殺されると思った。幼なじみのように来られるのだと思った。なのに倒れたのは自分ではなく、自分に刀を向けていた侍だった。
「生きてるか?」
「あ、あぅ」
血まみれの自分の手を引いて立たせてくれた男は忍だった。父や祖父の着るような装束を来ていて、刀を持っている。覆面の下から現れたのは二十歳そこそこの青年だった。眉間にくっきりとシワをよせて厳しい目をしているが、初音のことを心配しているようで掌で初音の頬についた血をぬぐい取ってくれた。
「悪かった。俺達がもっと早ければ」
ドクササコの者だと男は名乗り、自分たちの工作が遅かったために敵がここまで侵攻してきたのだと説明してくれた。
まだ十歳そこそこの初音にはよくわからなかったが、助けてくれたこの男は一瞬で初音の最高にかっこいい人になった。
「ドクササコの忍者なの?わたしの父や祖父もドクササコでお仕事しているわ」
「ああ知ってる。ここはドクササコ領だしな。お前のことは親父殿から聞いてる。初音、だったな」
歩けない初音を背負って家まで送ってくれた。
(たしかその後すぐに、わたしは彼の嫁になることが決まったんだ)
ドクササコの凄腕忍者と呼ばれる彼を、初音も通名に習って彼を「凄腕さん」と呼んでいる。
「凄腕さんはわたしが忍術学園なんかに行ってもいいの?」
初音の家にきた凄腕は、随分くつろいだ様子で弟の喜八郎と遊んでいる。まるで猫じゃらしでネコを構うような格好なのはどうかと思うが、喜八郎が喜んでいるので正解なのだろう。
「忍術学園だろ?いいんじゃねえか?」
「男女共学だし」
「なんだ。嫉妬してほしいのか。ガキのくせに色気づきやがって」
十三歳といえばもう嫁にいくような年なのに、凄腕はいつも子ども扱いする。だがそれも今日で終わりだ。凄腕は今日泊まっていく。初音は一緒に休むようにいわれていて、それがどういう意味なのかも知っていた。
「はーあ。喜八郎が寝やがった。つまんねえなあ」
膝にくっついて寝ている喜八郎を布団に寝かせると、凄腕はチラチラと初音を気にして見ている。
「お前、どうする」
「凄腕さんのところに枕持っていく」
「そ、そうか」
何をされるのか知ってはいた。母親に聞いたし、叔母からも聞かされた。誰もかれも初音が結婚することを喜んでいるのではなく、婿殿が将来有望とされる男だったことだ。
ドクササコ領になってまだ数年、少しでも優位な位置にいたいのだ。凄腕はドクササコ忍者でも凄腕とあだ名されるほどの実力があり、実家はやはり強い忍を出してきた家だそうだ。その家の三男ということで婿に来るなら丁度いいという話でもあった。
家をつぐのは長男の喜八郎がいるので心配はないのにと言った時、両親は初音がいい結婚相手を見つけたことを喜んでいるのだと言って笑っていたのを思い出す。
布団の隙間に潜り込んだ初音は、凄腕に掛け布団を乱暴にめくられて驚いた。
「何驚いてんだ」
「だって、初めてだし」
どんな顔をすればいいのかわからない。照れくさくて顔をそらそうとすると、両手で顔をすっぽり覆われて口付けられた。これまでそんな風にされたことはなかったのでますます驚いた。会っても初音が一方的に話すことが多かったし、彼が話すとすれば仕事のことばかりだったのだ。
犬に顔を舐められたような気分だったが、凄腕が何度も切なそうな声で呼びかけてくるので不思議な気持ちになった。
「初音。なあ。俺のこと好きか」
脇から腹を撫でた凄腕の手は、そのまま下がって尻をぎゅうっと鷲掴みにした。
「いいケツ」
囁かれるならもっと甘い言葉とかがよかったと思う。膨らみ始めた乳房にむしゃぶりつかれてますますそう思わずにはいられない。さっきちらりと見えた凄腕の下腹部は赤黒く充血した凶器に身を裂かれるなんて恐ろしすぎる。
ふいに指が割れ目を押し広げて入ってきたので腰をうかせると、凄腕がゲラゲラ笑った。
「指一本なら余裕だな。何本入るか見ておこうか」
「ひぁっあうぅ」
腹の内側がジクジクする。痛みと異物感に眉を潜めた初音に凄腕がゴクリと喉を鳴らした。見上げるといつもはキリッと上がった眉尻が下がり眼力も随分弱々しい凄腕が見下ろしていた。
「凄腕さ、ひぃぃ」
ブチッという効果音が聞こえたような気がした。衝撃が骨盤から背骨を抜けて脳天に抜けるのも感じて初音は目を白黒させた。
凄腕もまた、初めて生娘を相手にしていた。ここに来る前、凄腕は最初くらい優しくしてやろうと思っていたのだ。それが始まってみれば、金を払った相手にさえこんな乱暴をしたことないだろう。
「痛い!痛い痛い痛い痛い!」
遅れて口が動くようになったらしい初音は、叫びながらドンドンと凄腕の胸を拳で叩いた。
「もうやだ!やだぁ!」
「うるせぇな」
初音の口に指を突っ込むと舌を摘んで引きずり出す。
「旦那サマの好み、しっかり覚えろよ」
「フーッフーッ」
「お前かわいいよ。すっげぇかわいい」
「うっううっ」
初めて一緒に寝た。体はできていたが、初めてはさすがに痛かったし、痛いのにやめてくれない凄腕は鬼みたいだった。
「痛いんですってば」
「俺は気持ちいい」
体を揺すっている凄腕の熱い息が汗ばんだ胸にかかって気持ち悪い。
「鬼!」
「うるせえ。うつ伏せになってケツだせ」
「うわああん!」
泣いて頼んでも凄腕はやめなかった。最後まできっちり味わい、そして一人満足そうな寝顔で寝ている。ちり紙で血や体液を拭っていた初音はいびきをかいている凄腕の頭をこずく。
「二度とやらないんだから」
そう言っていたのに、それから何度もやることになるのを初音はうすうす感じていた。
卒業後結婚すると決まった日、ささやかながら酒とごちそうでお祝いをしてもらった。すぐに当事者二人は取り残されてどんちゃん騒ぎが始まり、初音は凄腕と一緒に外に出た。
「凄腕さん、見て」
夜空を煌々と照らす月を指さし振り返ると、凄腕は懐をごそごそと漁っている。
「何してるの?」
「お前にやろうと思って」
やっと見つけたそれを初音に差し出し、照れくさそうに笑った。
「怪我も病気も、これありゃ大丈夫だろう」
水晶を紐でくくったものだった。初音の親指ほどの大きさで、透明な石の中に白い筋がいくつも走っている。
「綺麗。どうしたの?」
「実家近くの川で見つけた。お前くらいの年だったかな」
「くれるの?」
「ああ。やるよ。大事にしろよ」
首から下げて、手にとり月に透かして見ていると、凄腕が横から顔をくっつけて口付けてきた。
「大事にしてやるから」
「うん」
「勉強がんばれよ」
寄り添って一緒に月を見ていたことを何度も思い出した。実習はきつかったし、座学の授業は薬草の効能など小難しい話ばかりでまったく楽しくなかった。
なにが一番つまらないかというと、銃火器に触れる機会がまったくなかったことだった。初音の家系はもともと力自慢が多い。祖父と父はその腕力を認められ、銃を扱うこともあるそうだ。
「わたしも鉄砲を撃ってみたいんです」
山田先生に頼んでみても、首を立てにふってはくれなかった。
「くのたまには必要ない」
「でも玉薬の作り方は勉強しますし」
「何度来てもダメだ。山本シナ先生にも言われただろう。それより、化粧をもっとがんばりなさい。紅の色、地味だから」
びしっと指差され初音はがっくりと肩を落とした。山田先生には言われたくない。
凄腕に相談してみようかと思ったが、会えるのは長期休暇の間のほんの二日三日程度だ。
凄腕
初音 綾部喜八郎の姉
卒業後に凄腕と結婚
忍の家に生まれたからには、いろいろと制約されることが多くある。いや、他を知らなければそう思うこともないだろう。ただ初音は他を知ることになっていた。
忍術学園への入学は、祖父が大川平次渦正と知り合いで新たに作ったくのいちを育成する教室に生徒が集まらないということで授業料をまけてもらって入学することになったからだ。
行きたくないと家族に言ったのは結婚も決まっていたからだ。夫になる男は忍で、どちらかといえばくのいちよりも妻や母に求められるようなことを勉強するべきだと思っていた。
「お前の言いたいことはわかる。だがおじじさまの知り合いなのだ。しょうがないだろう」
父はそういい、母と顔を見合わせる。
「良い機会よ。くのいちの心得なんてそうそう他所で教えてもらえるものじゃないし」
いつもぽやーっとした物言いの母はそういって父にお茶を渡している。母の傍らには母にそっくりの弟がいて、母の袖にじゃれついている。
「初音の様子を見て、喜八郎も入れようかねえ」
「喜八郎は長男よ。おとっちゃんのそばで覚えさせた方がいいわ」
「おとっちゃんは仕事でいないことの方が多いわ。おじじさまもそうでしょう」
忍なのだから、仕事の内容までは知らない。小さい頃は、帰宅した父や祖父がまったくなんの匂いもしないことを不思議に思っていた。人を殺めているのだと知ったのは、幼なじみの男の子が得意げに父親の話をしていた時だ。
「おとっちゃんは敵をやっつけて帰ってきたんだ」
「やっつけて?」
「おうとも。刀に血がべったりついてた」
刀に血がつくような状況だ。殺し合いになったのだろう。そして幼なじみの父は殺して勝った。
ふと、自分の父や祖父もそんな状況になって殺したことがあるのかと思った。
(帰っておっかちゃんに聞いたんだっけ)
なんとなく、自分の家族が人の道にそれたことをするとは思わず生きてきた。人を傷つけてはいけないと言われて育ったし、祖母が死んだ時そのうちにいつか自分も死ぬのかと知って恐ろしかった。
死ぬのは恐ろしい。だから人を殺すのも恐ろしいと直結して考えた。
「おっかちゃん。おとっちゃんは人を殺めたことがあるの?」
「あるよ。仕事だもの」
即答した母は、生まれたばかりの弟に乳をやりながら朗らかに答えた。
「うちの家系は力自慢が多いからね。戦働きではお殿様にご褒美をいただくこともあるんだよ」
「でも人を傷つけてはいけないって」
「仕事だからね」
受け入れるのは大変だった。仕事だから何をしてもいいのかと思ったのだ。母はふくれる初音の頬を指でつついて笑った。
(それでどうしたんだっけ。結構すぐにそれはどうでもよくなったんだ。村が戦に巻き込まれたから)
しまったと思った時にはもう遅く、村の一番外側にあった幼なじみの家ではその時在宅中だった母親ら三人が切られて死んだ。
初音の目の前での惨劇だった。背中をざっくり切られた幼なじみは、初音をかばって死んだも同じだ。
断末魔が耳の穴の中で反響している。逃げなければと思ったが、足がもつれて動けなかった。
殺されると思った。幼なじみのように来られるのだと思った。なのに倒れたのは自分ではなく、自分に刀を向けていた侍だった。
「生きてるか?」
「あ、あぅ」
血まみれの自分の手を引いて立たせてくれた男は忍だった。父や祖父の着るような装束を来ていて、刀を持っている。覆面の下から現れたのは二十歳そこそこの青年だった。眉間にくっきりとシワをよせて厳しい目をしているが、初音のことを心配しているようで掌で初音の頬についた血をぬぐい取ってくれた。
「悪かった。俺達がもっと早ければ」
ドクササコの者だと男は名乗り、自分たちの工作が遅かったために敵がここまで侵攻してきたのだと説明してくれた。
まだ十歳そこそこの初音にはよくわからなかったが、助けてくれたこの男は一瞬で初音の最高にかっこいい人になった。
「ドクササコの忍者なの?わたしの父や祖父もドクササコでお仕事しているわ」
「ああ知ってる。ここはドクササコ領だしな。お前のことは親父殿から聞いてる。初音、だったな」
歩けない初音を背負って家まで送ってくれた。
(たしかその後すぐに、わたしは彼の嫁になることが決まったんだ)
ドクササコの凄腕忍者と呼ばれる彼を、初音も通名に習って彼を「凄腕さん」と呼んでいる。
「凄腕さんはわたしが忍術学園なんかに行ってもいいの?」
初音の家にきた凄腕は、随分くつろいだ様子で弟の喜八郎と遊んでいる。まるで猫じゃらしでネコを構うような格好なのはどうかと思うが、喜八郎が喜んでいるので正解なのだろう。
「忍術学園だろ?いいんじゃねえか?」
「男女共学だし」
「なんだ。嫉妬してほしいのか。ガキのくせに色気づきやがって」
十三歳といえばもう嫁にいくような年なのに、凄腕はいつも子ども扱いする。だがそれも今日で終わりだ。凄腕は今日泊まっていく。初音は一緒に休むようにいわれていて、それがどういう意味なのかも知っていた。
「はーあ。喜八郎が寝やがった。つまんねえなあ」
膝にくっついて寝ている喜八郎を布団に寝かせると、凄腕はチラチラと初音を気にして見ている。
「お前、どうする」
「凄腕さんのところに枕持っていく」
「そ、そうか」
何をされるのか知ってはいた。母親に聞いたし、叔母からも聞かされた。誰もかれも初音が結婚することを喜んでいるのではなく、婿殿が将来有望とされる男だったことだ。
ドクササコ領になってまだ数年、少しでも優位な位置にいたいのだ。凄腕はドクササコ忍者でも凄腕とあだ名されるほどの実力があり、実家はやはり強い忍を出してきた家だそうだ。その家の三男ということで婿に来るなら丁度いいという話でもあった。
家をつぐのは長男の喜八郎がいるので心配はないのにと言った時、両親は初音がいい結婚相手を見つけたことを喜んでいるのだと言って笑っていたのを思い出す。
布団の隙間に潜り込んだ初音は、凄腕に掛け布団を乱暴にめくられて驚いた。
「何驚いてんだ」
「だって、初めてだし」
どんな顔をすればいいのかわからない。照れくさくて顔をそらそうとすると、両手で顔をすっぽり覆われて口付けられた。これまでそんな風にされたことはなかったのでますます驚いた。会っても初音が一方的に話すことが多かったし、彼が話すとすれば仕事のことばかりだったのだ。
犬に顔を舐められたような気分だったが、凄腕が何度も切なそうな声で呼びかけてくるので不思議な気持ちになった。
「初音。なあ。俺のこと好きか」
脇から腹を撫でた凄腕の手は、そのまま下がって尻をぎゅうっと鷲掴みにした。
「いいケツ」
囁かれるならもっと甘い言葉とかがよかったと思う。膨らみ始めた乳房にむしゃぶりつかれてますますそう思わずにはいられない。さっきちらりと見えた凄腕の下腹部は赤黒く充血した凶器に身を裂かれるなんて恐ろしすぎる。
ふいに指が割れ目を押し広げて入ってきたので腰をうかせると、凄腕がゲラゲラ笑った。
「指一本なら余裕だな。何本入るか見ておこうか」
「ひぁっあうぅ」
腹の内側がジクジクする。痛みと異物感に眉を潜めた初音に凄腕がゴクリと喉を鳴らした。見上げるといつもはキリッと上がった眉尻が下がり眼力も随分弱々しい凄腕が見下ろしていた。
「凄腕さ、ひぃぃ」
ブチッという効果音が聞こえたような気がした。衝撃が骨盤から背骨を抜けて脳天に抜けるのも感じて初音は目を白黒させた。
凄腕もまた、初めて生娘を相手にしていた。ここに来る前、凄腕は最初くらい優しくしてやろうと思っていたのだ。それが始まってみれば、金を払った相手にさえこんな乱暴をしたことないだろう。
「痛い!痛い痛い痛い痛い!」
遅れて口が動くようになったらしい初音は、叫びながらドンドンと凄腕の胸を拳で叩いた。
「もうやだ!やだぁ!」
「うるせぇな」
初音の口に指を突っ込むと舌を摘んで引きずり出す。
「旦那サマの好み、しっかり覚えろよ」
「フーッフーッ」
「お前かわいいよ。すっげぇかわいい」
「うっううっ」
初めて一緒に寝た。体はできていたが、初めてはさすがに痛かったし、痛いのにやめてくれない凄腕は鬼みたいだった。
「痛いんですってば」
「俺は気持ちいい」
体を揺すっている凄腕の熱い息が汗ばんだ胸にかかって気持ち悪い。
「鬼!」
「うるせえ。うつ伏せになってケツだせ」
「うわああん!」
泣いて頼んでも凄腕はやめなかった。最後まできっちり味わい、そして一人満足そうな寝顔で寝ている。ちり紙で血や体液を拭っていた初音はいびきをかいている凄腕の頭をこずく。
「二度とやらないんだから」
そう言っていたのに、それから何度もやることになるのを初音はうすうす感じていた。
卒業後結婚すると決まった日、ささやかながら酒とごちそうでお祝いをしてもらった。すぐに当事者二人は取り残されてどんちゃん騒ぎが始まり、初音は凄腕と一緒に外に出た。
「凄腕さん、見て」
夜空を煌々と照らす月を指さし振り返ると、凄腕は懐をごそごそと漁っている。
「何してるの?」
「お前にやろうと思って」
やっと見つけたそれを初音に差し出し、照れくさそうに笑った。
「怪我も病気も、これありゃ大丈夫だろう」
水晶を紐でくくったものだった。初音の親指ほどの大きさで、透明な石の中に白い筋がいくつも走っている。
「綺麗。どうしたの?」
「実家近くの川で見つけた。お前くらいの年だったかな」
「くれるの?」
「ああ。やるよ。大事にしろよ」
首から下げて、手にとり月に透かして見ていると、凄腕が横から顔をくっつけて口付けてきた。
「大事にしてやるから」
「うん」
「勉強がんばれよ」
寄り添って一緒に月を見ていたことを何度も思い出した。実習はきつかったし、座学の授業は薬草の効能など小難しい話ばかりでまったく楽しくなかった。
なにが一番つまらないかというと、銃火器に触れる機会がまったくなかったことだった。初音の家系はもともと力自慢が多い。祖父と父はその腕力を認められ、銃を扱うこともあるそうだ。
「わたしも鉄砲を撃ってみたいんです」
山田先生に頼んでみても、首を立てにふってはくれなかった。
「くのたまには必要ない」
「でも玉薬の作り方は勉強しますし」
「何度来てもダメだ。山本シナ先生にも言われただろう。それより、化粧をもっとがんばりなさい。紅の色、地味だから」
びしっと指差され初音はがっくりと肩を落とした。山田先生には言われたくない。
凄腕に相談してみようかと思ったが、会えるのは長期休暇の間のほんの二日三日程度だ。