第三者として物申す

眠い授業が終わり、やっとのこさ昼休みになったその時間は俺にとっての至福の時間じゃ。大体、倦怠感しか感じない授業を受けるのなんて酷く退屈であって、ただでさえ感じる倦怠感に付け加えさして面白くも無い古典の授業なんて聞きたくもないもんじゃ。さて、ちょっくら屋上にでも行くか。そんなことを考えながら一人で背伸びをすると、遠くの方向からずんずんと足音。及び赤い頭が俺に突進。え。


「駄目だ。俺死ぬかも」
「……は?」
「どうしよ。マジで。え、どうしよう仁王」
「は? え、は? なにブンちゃん」


赤毛のやつはやけに真剣な顔をしながらそんなことを呟きだした。いやいや。いきなり何事かって俺が思ったのは仕方ないことなり。というか、毎日幸せそうな顔をしている奴が何を言い出したんじゃろか。まあ、友達であることは間違いないし、とりあえず「なんかあったんか?」とこちらも真剣に聞くと、ブンちゃんは突然俺の肩をがしり、と掴む。え、近い。近すぎるんじゃけど。うわぁ、遠くで女子が黄色い声で叫んどる。っていうか、今小さくシャッター音が聞こえたが、誰じゃこんなへんな場面撮るのは。じゃなくて、大体なんで俺はこんな状態に。そんなことをぼんやり考えながらもう一度答えを促すと、一度複雑そうに顔をゆがめたブンちゃんは一呼吸。それと。


「名前が可愛すぎて、死ぬ」
「…………ごめんブンちゃん。雑音がした」
「だーかーらっ、名前が可愛すぎて、好きすぎて死ぬ」


やべえ。どうしよう、俺明日、いや今から心臓発作で死ぬかもしれねえよどうしよう仁王、とかぎゃんぎゃん言い出したからとりあえず頭を小突いてやった。え、なに? 俺もしかしなくても惚気話をされただけってことじゃろこれ。思わずじとっとした目で見ているのにも関わらず、ブンちゃんはべらべらべらべら彼の想い人について語っとる。いや、確かに名前は可愛い部類に入るとは思う。同じクラスになった時から思っとたが、今時の女子に珍しく純情で笑顔も愛らしい。気も利くし、俺の中でも「害の無い女子」のうちに堂々ランクインじゃ。


「はっ? お前も狙ってんの? 一回死ね仁王!」
「意味不明じゃ! っていうか心読むなっ! お前さんは幸村かっ!」
「まあ、狙ってねえならいいけどよ」
『なにが?』
「っ、よ、よぉ名前っ!」


うわ、今ブンちゃんの声のトーン思いっきり変わった。ありえん。っていうか、お前は恋する小学生のガキンチョか。頭の色だけはいっちょまえにイケイケゴーゴーしちょるくせに、心の中は純情ボーイって。あ、まさかこいつ、ギャップ萌えちゅうものを狙っとんのか? ……って、なして俺がこんなことを心配せにゃならんのじゃ。
大体ブンちゃんも結構遊んで来たはずじゃろうに、名前の前ではまるで使い物になっとらんし。まるで初恋相手同士のように初々しい態度も最初は見てて楽しかったものの、今となってはもどかしいの一言なり。


『あのね、さっき家庭科の時間でマフィン作ったの。だから、た、食べてくれる?』
「お、おうっ! もらっていいのかよ」
『う、うん。ブン太君に、そのあげたくて』
「っ、さ、サンキューな」
『ううん。受け取ってくれて、あ、りがとっ』
「いや、俺にくれてサンキューなっ、名前」



……甘い。っていうかゲロ甘じゃ。なんで高校生にもなってこの二人こんなゲロ甘な台詞のキャッチボールをしとんのじゃ。見てるこっちが糖分摂取しすぎでぶっ倒れそうなんじゃけど。いつの間にか俺の存在を無かった事にする勢いで名前と話すブンちゃんの姿と、そんなブンちゃんを必至に見つめる名前の姿を交互に見ながら溜息混じりに一言。「いい加減早うくっつきんしゃい」そうぼそりと呟いた目の前で、赤と黒の髪の毛がもどかしく揺れている。


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≫雪紫天音様
お久しぶりでございます。
私としたことがサイト移転のご連絡を忘れておりました!申し訳ありません!!
20000打ありがとうございました!

足を運んで下さって本当に嬉しいです(^^)

ブン太で、ギャグ甘夢という指定でしたが、仁王君がメインになってしまいましたね……
如何でしたでしょうか?

今回は、本当にリクエストありがとうございました!




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