反則行為にご注意

※高校時代



一体なんの話をしているんだろうか。
そんなことを考えている俺が名前を見つけたのは図書館の一室。植物図鑑を眺めていた俺の少し前方にいるのはツンデレ彼女もとい俺の彼女なのだけれども。正直言って、視覚的に悪いくらい可愛い。いや。常日頃からあいつは可愛いのだ。……口にしてやらないだけで。だけど、今はそんなレベルじゃない。りんごみたいに頬を真っ赤にしながら、時折花がほころびそうなほどに淡い微笑みを浮かべている。
あいつの目の前に座っているのがあいつの女友達でよかった。もしも男だったら、その男にこの図書館中の本を口の中に詰め込んで窒息死及び圧迫死させないといけなかっただろうな。本棚の隙間からちらりと名前の顔を伺う俺は正直ストーカーとも思えるけど、それよりも重要なのはあいつが今話している内容だ。一体あんなに幸せそうに何を話しているのか。
どうせあいつのことだから、好きな食べ物の話とか、はやりのアイドルの話とかなんだろうけど。……そのアイドルが俺よりもイケメンで俺よりも性格がいい奴だったらどうしようか。いやいや、冷静になれ精市。そもそもあいつは、俺のかの……。


『でもさ、私本当に、……幸村と付き合えて嬉しくてさ』
「っ!」


ふわりと心地良い音が届いて微かに眩暈がした。目の前にいるのは確かに名前で、そんな甘い台詞をこぼしたのも名前で、まるで夢でも見ているのかと思うほどに嬉しすぎる。そういえば昨夜あいつの夢を見たからその延長線上なのかもしれない。所謂夢の続き。だって、こんなの俺にとって最高の言葉でしかない。「でも幸村君の前じゃツンツンしてるんでしょ?」なんていうあいつの友達の声に続いて聞こえたのはまたはにかんだような声。


『うっ、そ、そうだけど……でもね。その、幸村だからこそ、照れちゃう、というか……。好きすぎて、どうすればいいか、分からないというか……っ、ほんと、どうしようもないよねっ』
「……幸村君に直接言ってあげればいいのに」
『だ、駄目っ、やめてよね! ゆ、きむらには絶対秘密だからね! 絶対だよっ』


駄目だ。可愛すぎる。俺のことを幸せそうに語るあいつの顔は今まで見た事の無いほどの照れ顔で、赤く頬を染めながら笑顔をこぼしている相手が俺じゃないことに少々不満が募らないこともないが。……その話の根源となっているのが俺なのだ。これ以上に幸せなことがあるだろうか。俺はその場に崩れ落ちるように座り込んで、反射的に熱くなった頬を手で覆いつくして隠してみた。目の前の古びた本の表紙が「とある愛の伝道師」なんていうふざけた題名だったのにさえ照れくさくなる。
なにこれ。俺ってこんなに純情だったっけ。それにしても、いつもあのくらい素直だったらいいのに、と考えつつもあんなにも素直になられるとこちらが我慢が効かなくなるに決まっている。ただでさえあいつのことをめちゃくちゃにしそうな本能を、なけなしの理性で押さえ込んでいるんだから。そう考えれば、今のままでいいのか。ああ、よく分からないけど、とりあえず。



「……その可愛さは、反則だよね」



赤い頬のまま苦笑交じりに呟いた俺の言葉なんて知りもしないだろう名前は、また幸せそうに笑った。嗚呼、君は本当にずるいよね。そうやってまた俺をかき乱すんだから。だけど、……だからこそ、また名前から目を離すことが出来なくなるんだろうけどね。




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≫はるな様
リクエストありがとうございました。
拝啓彼氏様のお話ということでノリノリで書かせていただきました。なんだか幸村がストーカーじみていますが、そこはイケメンなので許してあげてください←
これからも、更新頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします。








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