影みたいね


「あんたって本当かわいそうな子よね。自分と彼がどれ程違うのかも分からないなんて」


眼前で最後にそんな台詞を吐き出してまた足音が遠くなっていく。何がどうかわいそうな子なのかもっと具体的に教えて欲しいくらいだ、とも言えず、ただ虚しく響くのは私の呼吸音だけ。結果的に彼女達が言いたかったのはこう。あんたは幸村君なんかと釣り合っていないんだから別れなさいよ、という丁寧な暴行的忠告、イコール彼女達は私が嫌いであり、憎くもあるのだということ。なんか馬鹿らしくなってきたから、とりあえず溜息をついてみた。
駄目だなぁ。嫌味を言われるたびに、あまりにも的確にも思える言葉達に苦笑しか零れない。
鈍い音をたてて落ちて行くのは私の中の感情。別れて欲しいと言われたことが悲しいんじゃなくて、それを否定出来ない自分が悲しい。名前という存在があまりにも無意味さに、酷く悲しい。
私の存在とは、なんて。


「名前っ」


切羽詰まったかのような声に振り返る暇もなく抱きしめられた体は小さく音を立てる。骨が泣いてるのか私が泣いてるのかは分からなかったけど、抱きしめられたということは理解出来た。
辛子色に頭を小さく預けると、幸村君の心臓の音が聞こえた気がして少しばかりの優越感に浸る。


「ごめん」
『なんで幸村君が謝るの? なんにも悪くないのに』
「……ごめん。本当に。ごめん」


千切れそうなほど切なびた声に私が泣きそうになってきて、急いで幸村君の胸に顔を押しつけた。違うの。幸村君のせいじゃない。その一言さえ出てこなくて、カラカラと乾いた声で「好き」なんて呟くと、彼は困ったように笑う。だけど、その後で優しい瞳で「本当に君は俺には勿体無いくらいに素敵な子だね」そう口にしながら私のコメカミから首筋にかけてキスを落とす。艶かしい彼の視線と温度が愛おしい。
身をよじった私の唇にキスを落とすと、彼は私と額を合わせて。


「影になれたらいいのにね」
『……ゆ、きむら君?』


突然何を言い出したのと思えば、そんなことを言い出すものだから可笑しくて。そのまま、さりげなく唇を触れさせてくる。


「そしたら、ずっと名前の側にいれる。守ってやれる。片時も離れず……君を愛せるのに」


やだ? と首を傾げるその仕草が可愛くて。だけど。


『ううん。でもね、そんなに愛されたら私きっと幸せ過ぎて窒息死しちゃう。だからね、私が幸村君の影になりたいな』
「それじゃ、俺が窒息死だね。……なんてね」


そんなことを二人で言ってどちらからともなく微笑む。


『私、幸村君にあってないかもだけどもね、だけど、幸せよ』
「俺は君だから好きなんだ。名前だから、愛おしいんだ。だから、そんな悲しいことを言わないで」


幸村君は瞳を私に向けてまた口付けた。
確かに私はかわいそうな子かもしれない。幸村君と、言うならば人間としての地位がこんなにも違うのに愛されたいと望むのだから。
でも、この幸せに一生埋れていたいと思えるのは、彼が私のことを痛いくらいに愛してくれているから。そんな単純明快な理由。
だけどね。それだけで私、幸せよ。






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≫プリゴロタ様

はじめまして。管理人の弥生坂 純であります。
拝啓彼氏様大好きということで、ありがとうございます。
これからも、頑張りますので、応援していただけるとありがたいです!
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今回リクエストありがとうございました。





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