玉響の煌めき

隣を歩いて行くカップルは中学生ぐらいだろうか。初々しい態度で頬を赤く染めながら細い指を絡め合っている。かくいう私にもあんな時代があったのだけれども、それはもう遥か遠い昔の御伽噺のようだ。そんなことをぼんやりと考えながら意味も無く溜息をつく。精市はどうせ今頃テニスだろうし。私は折角休みだっていうのにさ。
……いつもそうだ。
私が忙しい時は精市も忙しくて、私が暇な時も精市は忙しくて。まぁ、精市が忙しいのなんていつも通りのことなんだけどね。
何も無い日である今日、私は一人で買い物がてらブラブラと街を散策しているのだけど、やっぱり一人は寂しくて。おまけに街にはカップルだらけ。赤、青、黒に紫に白。今日はやけに浴衣姿の人が多いことだ。


『あ、そっか。今日は、花火大会、か』


やっと気づいて、それと同時にそんな日に一人で歩く自分が不憫のような、馬鹿らしいような、変な気分になる。気づけばそこは付き合いはじめによく通っていた公園。ベンチに座りながらぼんやりと考える。
去年、いやその前か。付き合ってはじめての年は花火大会も行った。だけど最近ではお互いにすれ違いばかりで、花火大会はおろかろくに顔も合わせてない。このままだと俗にいう……。


『自然消滅、とか』


笑えない。けど、うん。一番ありえるよね。もう、いっそのこと私から別れを告げたほうがいいのかな、なんて自嘲気味に笑った時に、花火の音。夜空に光るその色に目を奪われていると、いきなり抱きしめられた。相手が誰かなんて香りで直ぐにわかって『精市?』と問うと肯定の台詞。「名前に会いたくなって来ちゃった」なんて言われたらなんにも言えなくなる。
遠くから聞こえはじめた花火の音と、息を吸い込む精市。


『せ、いち。なんでここにいるってわかったの?』
「愛」
『……馬鹿』


嬉しいよ、とは正直には言いたく無くて顔をそらすと彼は微笑む。花火の音が響いて空に瞬く光。一瞬のその煌めきに目を奪われていると、声。


「……玉響の煌めき」
『へ? た、まゆら?』
「一瞬の刹那のような時のことだよ。いい言葉だよね」


だから、俺はこの瞬間が限りなく愛おしいよ。そんな台詞が耳に届いた時には、後ろにいたはずの彼が私の隣に座っていて、私の唇に精市の唇。少し息を吸い込むだけで香る精市の体臭が愛おしくて、触れ合える唇が愛おしくてそのまま抱きしめられる。鼓動。精市と私の鼓動。


「寂しさは、これからもきっと名前に背負わせる」
『うん』
「だけど、これからも一生名前を愛しているから。それだけは忘れないで欲しいな」


馬鹿だなぁ。精市は。私は寂しいくらいじゃ死なないのにさ。そう呟きつつも、その体に身を寄せて彼の腕に包まれる幸せを感じる。ふわりと漂ったその言葉に重なる花火の音は私の耳の中で幸せな音を爆ぜさせた。




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更姉いつもありがとう!
ということで、どうかな。切甘になったか微妙だね。というか、ネタが前のとかぶってる気もするけど←
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