桃色珊瑚に浸る
いつもと変わらない綺麗な笑顔で、蒼の髪を揺らして、幼馴染のせー君が私の前に現れた。その顔があまりにも幸せそうで、あまりにも楽しそうだから、何かいいことでもあったのかな、なんて考えながら『どうしたの?』と首を傾げると、彼はそのままの笑顔で微笑みながら。
「あ、俺彼女出来たから」
『え』
ノンブレスで。彼はいとも簡単にぐさりと私の心を殺した。
せー君のソバにずっといるのは私だけなんだ、なんて考えていたのはなぜだろう。
そんな傲慢が今まさに実体を得たかのようなその光景に私は息をするのを忘れそうだった。
せー君は私にそれだけ言うと、スタスタと歩いて行く。
あまりにも突然のことであまりにも衝撃が大き過ぎて頭の中がパニックする。駄目だ。よく分からないけど涙が止まらない。
やだ。なんで。そんないきなり。
とにかく涙が止まらなくて、馬鹿みたいにボロボロ泣いている私は、正真正銘の馬鹿だ。
誰? とかそんなのどうでもいい。だって、分かった所で私がこれまで通りみたいに、せー君のソバにいれなくなったことは確かなんだから。
頭の中では、せー君の優しい微笑みが浮かんでは消えて、どうしようもないまま私は放課後を迎えてしまった。
せー君は何時でも一緒だった。幼馴染だから、行き帰りも同じなのは当たり前で、勿論家も近いものだから家族ぐるみで仲良しで。気づいた時には恋をしていたわけだけど、せー君はきっと私の想いなんて知らない。
だからこそ、せー君は彼女を作ってしまったんだろうけど。
テニスボールが跳ねる音が聞こえるこの教室で一人机に伏せる。流れる涙が止まらない。だけど現実も変わらない。
やだよ。離れたく無い。当たり前のように好きでいたのに、それすらもう許されないなんて。
『離れないで……せー君』
「うん」
『っ?!』
顔を上げたそこには満足そうに微笑んでくるせー君と、「ほんと名前は可愛いよね」という響き。そのまま近づいて来た彼は座っている私を優しくその腕に包みながら静かに、満足そうに破顔した。
「嘘だよ」
『……へ?』
「俺が名前以外の女と付き合う分けないだろ」
その台詞に数秒程フリーズして……私は、せー君の意地悪に嵌められたんだということに、やっと気づいた。
『な、んで嘘ついたのっ……』
苦しくて、寂しくて、途方もないくらい絶望に浸っていたんだよ、という思いをこめて言うと彼は少し意地悪に微笑んで。
「その顔が見たかったんだ、って言ったら怒る?」
当たり前でしょ! とは思いつつも、せー君が優しく抱きしめてくれるものだから私の心臓の音は止まらなくなる。あーこのまませー君と溶けてしまいたい、なんて考えた矢先に「一緒に溶けちゃいたいね」とか言われてしまっては、私はもう反抗する術なんて分からなくなってしまった。
その後に、付き合おう、とも確認される前に唇を奪われるとは思わなかったけど。
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≫美咲様
今回リクエストありがとうございました!
心臓はきゅーとなりましたでしょうか?
今回、切甘ということで鉄板ネタの幼馴染でした。……が、完全にただの性格悪いせー君の話になってしまいました……あれ。
出来がこんなので申し訳ありません!
これからもどうぞよろしくお願いします!