馬子にも衣装

冬休み。立海大への進学が決まった私は、どのようにその休みを過ごしたものかとうんぬんかんぬん考えていた。幸村は「は? 冬休みも毎日部活に決まってるでしょ。暇人のお前と一緒にしないでくれるかな」と満面の笑みで私に毒を吐いてきてくれたものだから、私も意地になってしまって。


『わ、私だって、毎日忙しくて、幸村なんかと話す暇もないんだからっ』


そんなことを口走ってしまった。それが、冬休みにはいる前の最後の登校日だったために、私はどうやら今年の冬も一人寂しく過ごすことになりそうである。ま、去年も家族とクリスマス会をしたくらいだから去年と同じだと思えばそれまでなんだけど、折角、幸村と付き合えたのにこんな色気のない冬休みを送るのは正直、残念以外の何ものでもない。
そう、つまり、俗に言う恋人たちの祭典であるクリスマスイヴの予定なんて皆無なのだ。かといって自分から電話をかける度胸も勇気もなくて、あるのは意地っ張りな心と幸村に対する好きだって気持ちだけ。あーあ、自分の性格がいい加減に嫌になる。今に始まったことではないんだけどね。
そんなことを考えているうちに今日はもうそのクリスマスイヴ。こうなったら、一人でショッピングにでも行こう。テキパキと動き着用したのは、もしクリスマスにデートすることがあれば着よう、と思って買っていた少し丈の短いスカート。ファーのついた裾をゆらし、家の鍵を手にする。
幸村は今日も部活か。……学校に寄ったら、会えるかな、なんて考えていたら家に響いたのはチャイム。



『……で、その、なんで、私は、真田君の家につれてこられたんですか』
「気にしたら負けっすよ」
「そうだな、お前はそこにいればいいんだ」
『意味が分からないよ赤也君と柳……』


そして今私がいるのは真田君の豪華なお家。これこそ日本の家、と言っても過言ではないほど雄大で荘厳な家のその一室は外装と似つかわしくないほど西洋風に飾り付けられている。もしかしなくてもここでクリスマス会をするらしい。だけど問題はそこじゃない。……幸村の姿がない。よく見れば真田君の姿もないから、もしかして二人して練習しているのかもしれない。というか、真田君の家なのに勝手に入ってよかったのだろうか。それに、幸村がいないのに私なんかが。


「考えことか?」
『っ、にお、君』


声がしたかと思えば、目の前に仁王君の姿。銀髪がさらさらとほぼ眼前で揺れていて思わず息を詰める。咄嗟に視線をずらした私の前で、何故か妖艶に微笑んだ仁王君は私との距離をつめ、それを必至に避けの攻防戦を繰り広げていると、背中に硬い感触。どうやら逃げ場はないらしく、それを合図に仁王君の手がするりとタイツ越しに膝頭を撫でた。


『ひゃっ、』
「寒くないんか? こんな格好で」
『べ、別にへ、平気っ、で』
「その服、お前さんに似合っちょる」
『っ、あ、りがと、で、ち、かいっ、近いっ』


ぎゅう、と目を瞑ったのと、頬がつままれるのはほぼ同時で、痛みに目をあけるとそこには蒼い髪。


「仁王、あとから覚えときなよ」
『ゆ、きっ……ひゃっ、ちょっ』
「真田、ちょっと隣の部屋借りるよ」
「あ、ああ、かまわんが」


あまりにもめまぐるしく進むことに頭がついていかないで、やっと意識がおいついた頃には私の目の前に明らかに不機嫌な幸村と、差し出された山吹色のジャージ。頭にクエスチョンマークを浮かべている私に何故か舌打ちをして、早口で「そんな格好で他のメンバーを誘惑しようとかあざとい考えされても困るからね。このジャージでその足隠せよ馬鹿」とかそんなことを言った。いやいやいや。意味が分からないんですがっ。あまりにもぶしつけなその言い方に頭に来て「どうせ太い足ですよっ」と叫んでやろうとするその前に。


「……可愛すぎてイラつく」
『え、い、まなんてっ』
「……馬子にも衣装だねって言ったの」
『っ、し、失礼なっ』


だけど、最初に言われた台詞が彼の本心だったら嬉しいな、なんて思ったらそれだけで幸せで、皮肉めいたことを言いつつもちゃんと私のことを気遣ってくれるそぶりを見せてくれる幸村の服の裾をそっと掴む。すると、「服がのびる」とぼやきながらも指を絡めてくれたその指先が愛おしくて思わず微笑んでしまった。思わずそのまま「これ、幸村とのデートのために買ったんだよ」と言った瞬間に彼が勢いよく振り返ったのはさすがに私も驚いたけど。


「……仁王に触られたらお仕置きね」
『心配しなくても、ずっと幸村の隣でおとなしくしときますっ』
「あたりま、えだろ」


不意に指の力が強まったのは気のせいだろうか。



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≫キャメル様

お姉さまああああっ!
お久しぶりすぎて申し訳ないです。しかも移転したことを言ってなく申し訳ないです!
企画参加ありがとうです。嬉しいよー。
そして今回、甘い……というリクエストだったのに、甘く、ない、ですねあああ。
単に仁王君がちょっとした変態になっちゃいました。
今度もうちょっと糖度高めでかけるようにちょっと修行に行きます!
リクエストありがとうでした。
これからもよろしくお願いいたします。




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テーマ「人外ファンタジー」
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