picture magic

「は、別に怒ってないけど。勘違いしないでくれる?」


幸村君が拗ねた。
……って一言で片付けられたらどんだけ楽なんだろうか。クラスメイトや教師の前では天使と言っても過言ではないほどニコニコしているこの人は、私の前ではあろうことかいつもこのような態度だ。まあ、今日のはいつもよりも数倍酷いのだけど。というのも、前から「名前の部屋に行ってみたいんだけど」と言われてたものだから、ちょうど彼の部活の休みと重なった今日、我が家に招待したのだ。
そりゃ、大好きな人が来るんだから掃除もしっかりとしたし、いつもよりも少し可愛らしい洋服を着て、それこそ飲み物にまで真剣に思考を及ぼしたくらい。それなのに、幸村君は私の部屋に入って5秒後には一気にテンションを変えてしまい、心配になった私が声をかけ、冒頭に戻る。付き合ってまだ2ヶ月で、やっとのお家デートなのに、どうしてこんな気まずい雰囲気にならないといけ……。


「……写真」
『はい?』
「……」


ああ、もう一体なんなんだ。お前はガキかっ、と思いつつもこれ以上不機嫌になられても困る。というか、せっかくのお家デートが台無しになってしまう。いつの間にか、私のお気に入りのクッションを抱きかかえたままの幸村君に目線を合わせながら「ごめんね、なんのことか分からないから教えて欲しいな」とおそるおそる聞くと、彼はちらりと私に目をやり。


「柳と真田が映ってる。仁王も柳生も挙句のはてにジャッカルまで」
『……え』
「だーかーら、なんで机に飾ってる写真が俺だけじゃないわけ? なんで他のやつもいるの?」
『はいっ?!』


幸村君が指差した先にあるのは確かに写真。しまった、隠すの忘れてたっ。あれは、運動会の時に、部活動リレーで脅威の走りを見せたテニス部の記念写真で、写真部に友達がいる私はその写真をわりと安値で売ってもらえたのだ。テニス部の写真といったら、そんじょそこらのアイドルの生写真にも負けを劣らず高値で売買されていて……。でも、幸村君が怒っているのはそこじゃないし。なんでって言われても。


『だって、幸村君単体の写真は、その、高い、わけで……』
「名前が頼めばいつでも撮ってあげるのに。そのくらい普通でしょ。言えよ馬鹿」
『っ、ほ、ほんとっ?』
「……ていうかさ」


腕を強くひかれたと思えば、いきなり目の前にあるのは幸村君のドアップで、思わず息を呑んだ。それが幸村君的には正解だったらしく、彼は少し満足そうに微笑むと遠慮もなく私の唇にキスをした。一瞬の触れ合いのあとに目先で色っぽく唇をなめた姿が見えて一気に顔が暑い。


「……写真くらい、二人きりだったら喜んで撮るのに」
『っ、ほ、んと、に?』
「付き合ってるから当たり前。……それともゲーセンでもいってキスプリ撮りたいの?」
『っ、そ、それはっ』
「やだよね。だって、そこで俺が欲情しちゃったらまずいもん。止まれないし」


問題は其処じゃない気がするんだけど。
だけど、気がついた時には幸村君の右手に携帯。左手に私の腰。つまりありえないくらいの急接近をしており、また体温があがる。「ほら、笑って。ま、その照れ顔も可愛いけど」なんて歯が浮くような台詞に存分に照れつつも、カメラに目線をやる。やばい。幸村君とツーショット。どうしよう。私変な顔してなかったよね? そんなパニックを起こす私に「もう一回」と優しい声。シャッター音に続いて、今度はあろうことか、すぐにキスがふってきて、驚いて目を開けたときにまたシャッター音。


「あ、結構綺麗に取れた。写真だから、キス写かな? よし、虫除けになる」


満足そうにそう言った幸村君のさっきまでの不機嫌さは何処にいったのやら。でもそれを嫌だと叫べないところを見ると、私もその写真を望んでいたみたいってことで、更に気恥ずかしくなってしまった。
まさか、幸村君がそのキス写なるものを、テニス部に送信していたなんてことを知るのはあともう少し先のこと。






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≫あさひ様

はじめまして。管理人の弥生坂 純です。
私の書く幸村君を気に入ってもらえてよかったです。意地悪で性格が悪い彼しかいないところで申し訳ないですね(笑
影ながらでも応援していただけるなんて。私も影ながらあさひ様を待っています!
ツンデレ幸村君を目指しました。とくに最初とかツンデレです。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。






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