頭がパニパニ

やばい。何がやばいってやばいことがやばいってわけで、あああ、頭がパニックじゃ。もう少しで頭がパニックしすぎてパニパニってなる。あれ、そういえば百人一首に神の子のパニパニ的なやつがあった気がする。幸村か。あいつ百人一首まで進行しとるのか。恐ろしい男なり。さすがは神の子。はるか昔のかるたにまでイップスか。すごいなり。パニパニ。なんか、そんなことを言ってた芸人もおった気がする。あれ、そういえば。


「いい加減にしたまえ。大体、頭がパニパニってなんですか意味不明ですよいつも以上にそれに百人一首はパニパニなどという不可思議な発音ではなくまにまにですついでに言えば神の子などではなく神です何故幸村君が百人一首などに進行していると考えたのか私には不明ですねそれに芸人は今は関係なさすぎですそれ以外になにかありますか」
「……いや、ない」
「よろしい」


柳生は溜息交じりに肯定すると、やれやれと肩をすくめてみせた。「もう決心はつきましたか?」と尋ねられても俺の中の決心はそう簡単に頷いてはくれずに、結局また余計なことを考えてふりだしに戻るんじゃ。


「そのような態度でいたら、せっかく一ヶ月間も練習した名前さんへの告白なんてうまくはいきま……」
「あーっ、あーっ!!!」
「……どうしてコートの中とここまで性格が違うのか正直驚きますよ」


柳生はさっきとうって変わって少し困ったような笑みをこぼしながらも俺の肩を優しく押す。というまでの一連の流れを屋上の扉の前でしているわけで、この向こうには俺の想い人である名前ちゃんがいるという状況。駄目じゃ。ありえんくらい心臓煩いんじゃけど。顔は暑いし、呼吸乱れるし、あああ。


「どうしよっ、やぎゅっ。俺どうしよっ」
「仁王君、標準語になっていますよ。それと、名前さんがいますが」
「え」


不意に目を前に向けると、そこにはきょとん顔している名前ちゃんの顔。「なんか、叫び声がしたから気になって来ちゃった」とかそんな台詞をこぼしながら天使スマイル。やばい。その笑顔だけで天国にいけそうなんじゃけど。というかもうここは天国なり。屋上という名の天国じゃ。……じゃなくて。柳生に助けを求めようと後を振り返った時には既に奴はおらんし、かといって目の前むけば俺の大好きな名前ちゃんがおるし。やばい。俺のことを心配そうに見る目が好きすぎてやばい。今思えば、始業式で、桜の花をバックに笑う姿に一目ぼれして早三年。俺は毎日名前ちゃんの笑顔に癒されてきたからこそ頑張ってこれた。三年生でやっと同じクラスになって、あろうことか隣の席にまでなって、そのときにテニス部の仁王雅治じゃなくて、俺という存在自体に笑いかけてくれているような名前ちゃんの笑顔が本当に暖かくて、ますます好きになった。というか、名前ちゃん無しのこの世とか、ラーメンに麺が入ってないくらいありえんことなり。みんなの前では自分を作って飄々としていたけど、名前ちゃんの前では素の俺でいられたのが本当に心地よかった。あの日から、ずっとずっと名前ちゃんだけが。


「好きじゃっ」
『……へ?』
「……あ、……」


え、俺今なに言った?
目の前にはさっきまでの笑顔を手放してぽかんと口を開けている表情。そんな顔も可愛いなんて反則じゃ。……じゃなくて、やばい。まさか、一ヶ月間柳生と練習を積んできた告白をこんなシュチュエーションもロケーションもない屋上と階段を繋ぐ扉の入り口で言うなんて俺どうにかしちょる。駄目じゃ。これはいくらなんでも酷い。これでオーケーされたら『私も好きだよ』ありえ……え。


「え?」
『私も、好き、だよ』


今まで見た事のないような照れ顔で、それでも今まで一番可愛い笑顔で名前ちゃんが笑っちょる。そう思ったら腰が抜けて、思わずその場にしりもちをつく。


『に、仁王君っ』
「え、ほ、ほんとに?」
『う、うん。本当だよ。その、仁王君、もほんと、に?』
「あ、たり前じゃっっ、名前ちゃんが好きじゃっ、大好きなりっ! っ、あ……」


やばい、感情に任せすぎた、と思うのと名前ちゃんが「嬉しい」と言いながら俺の胸に飛び込んできたのはほぼ同時で、瞬間的に目の前が真っ白になって俺の記憶は一瞬フェードアウト。やけど、その後に感じた微かな温もりと、名前ちゃんの嬉しそうな顔でまた現実世界に引き戻されての繰り返し。
なにはともあれ告白が成功してよかった、と思ったときには頬を大粒の涙まで伝い始めて、結局名前ちゃんは嬉しそうな顔のままで俺の涙をぬぐってくれたのであった。




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≫白桃様

はじめまして。管理人の弥生坂 純です。
揚羽蝶に心を奪われた、ということをお聞きし……こちらが感動してしまった管理人です←
あの話は結構どろどろだったりするので、気に入ってもらえて光栄です。
そして、CPもいけるのですね!とそこでまた感動を覚えたので、前半はさりげない82風味でお届けしてみちゃったりしました。CP好きさんがいらっしゃってると知れただけで満足な純です。
こんなにヘタレな仁王君を描いたのは初めてだったので、完全なるキャラ崩壊している気もしますが、どうぞそこはスルーの方向でお願いいたします。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。








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