It is summer

夏っていうのはすこぶる暑い。そりゃ、夏だから仕方ないとは言えあまり暑いのが得意ではない私としてはどうにも耐えられない。どちらかといえば冬のほうが好きだ。夏は汗をかくし、蝉は煩いし、とにかくだるい。それに自分の呼吸さえなんだか熱を持っているようで嫌になる。というか、既に汗がでろんでろんに私を溶かしていってるんじゃないかなこれ。というかというか、もうこれ私絶対溶けるよね。無理。もう、限界っ。


『だからお願い離して精市っ!』
「やだ」
『っ、や、やだじゃないっ』
「どもったから離さない」
『駄々こねないでっ』


そしてそんな私の体をすっぽりと抱きこんでいるこの男はなんでこうも涼しそうな顔をしているんだろうか。私はさっきから汗くさくないかな、とか、近すぎてどうにかなりそうなんだけど、とか、とにかくひっきりなしに悩みが浮かんでばっかりだというのに、精市は満面の笑みで私を抱き枕状態。向かい合わせで抱き合っているものだから、必然的に彼の顔が見えてしまう。それを避けようと目線を下げたらそこには色っぽすぎる鎖骨。彼の透明な汗がつらりと流れるのを見て思わず欲情しかけた自分に赤面をしてしまい、なんだか気恥ずかしくなった。……た、確かに私たちは恋人だから、行為自体は間違っていないんだけど、なんでこんなくそ暑いときにクーラーもつけないでぎゅうぎゅうしないといけないんだろうか。ただでさえ精市に触れられて暑いっていうのに、このままじゃ体温以上で脱水症状を起こしそうなんですけど。すると不意におでこにリップ音が響いて、「ねえ、名前」と私を呼ぶ声。


『な、なに?』
「熱中症ってゆっくり言ってみて?」
『へ?』


ついに頭まで溶けてしまったんだろうか精市は。だけど満面の笑みで促されると断る理由もない。一体どうしたんだろうか、と考えつつも含むようにその単語を口にする。えっと、熱中症をゆっくりと、だから。


『ねっ、ちゅー、しょー』
「……駄目だ。思っていたより破壊力すごいね」
『え、ちょ、なにっ、ん、むっ』


突然与えられた口付けは何時もに増してあまりにも性急で私は一瞬目の閉じ方さえも忘れてしまった。そのせいで私にキスをする精市の艶やかな顔が至近距離すぎる位置で見えて今度は呼吸の仕方を忘れそうになる。いつもは女の子にも負けないくらい綺麗な顔をしている精市の顔がすぐ傍にあって、その呼吸口が私に直接繋がっているっていう事実だけで体が燃え尽きてしまいそうなくらい愛おしくなる。酸素を求めて口を開いた隙間からにゅるりと舌が入り込んできて、なんだかお互いがよりいっそう近づけたような錯覚。思わずキスの合間に「好き」と上ずった声で告げるとそれに連動して、精市が飛び跳ねた魚のように私から離れた。


『は、はぁ、ど、どした、の、せい、いち』
「……いや、予想外、だったというか」
『へ?』
「ああ、冷静になれ俺。抑えろ抑えてくれ」
『ちょっと精市、どうしたのっ』
「見るなっ」


見るなと言われると見たくなるのが人間の性というもので、精市が私の目を、自分の手で覆う前に見えたのは珍しく顔を真っ赤にした精市。今まで見た事のないようなその表情に、精市でも照れることがあるんだな、なんて思いつつも幸せすぎて私はその体に抱きついた。


『好きよ、大好き精市』
「……残念。俺は愛してる」
『うっ、じゃあ、愛してるよりも愛してるっ』
「名前」


凛とした声が私に響き、顔を上げた先にはまだほんのり頬の赤い精市。幸せそうに微笑みながら彼はゆっくりと口で弧を描きながらそっと、そっと囁いた。


「生まれてきてくれて、ありがとう」


別に誕生日でもなんでもないのに、そんなことを言ってくれる恋人が愛おしすぎて、でもその台詞に勝てる単語なんて出てこなくて結局私は困った挙句にまた彼の胸に顔をうずめた。嗚呼、幸せ。




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≫美有様

初めまして。管理人の弥生坂 純です。
なんと、よく足を運んでいただいてましたか。ありがとうございます。
コメント嬉しかったです。
我が家の幸村君は意地悪少年ですが今回は、照れを入れてみました。激甘の意味をもう一度辞書で調べた方がいいほどに微妙な甘さですが、どうぞ!
これからもよろしくお願いいたします。






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