シンプルなマジック

残暑とか立秋とか俺的にはそういうのはあまりどうでもいいというか。いや、確かに植物を育てる際に季節は大事だし、その時期ごとの独特の空気、湿度及び環境によって育ち方も実る花も違ってくるから、一概に関係ないとは言えないな。つまり言いたいことはそういうことじゃなくて、今目の前にいる少女は春夏秋冬いつでも愛おしいというそんなありきたりのことなんだけど。
ぼんやりとその必至な顔を見つめていると、不意につぶらな黒目が俺のことをぱちりと捉えて俺はそれに返すように微笑んで見せた。しかしながらその反応はどうやらお気に召さなかったようで、名前は困ったように眉をひそめながら机の上にシャーペンを転がした。偶然色違いのシャーペンを使ってるなんて、俺たちってどこまで相思相愛なんだろうね。まあ、単に俺が名前の好みを知っていて、あいつが好きそうなデザインだな、とか考えて雑貨店で買ったのだから、偶然、と言っていいのか分からないけど。だけどまさか本当に一緒のものを使っているんなんてちょっと嬉しかったりするよね。


『なんでにやけてるのさ精市』
「いや。単にちょっと思い出し笑いを」
『あーあ、頭いい人は勉強しなくてもいいなんてうらやましいなー』
「俺はいつもやってるし。毎日のぐだぐだ生活のつけでしょ」
『うっ……そう、だけど』


あ、ちょっと言い過ぎたかも。そんなことを考えつつも蝉の声をバックに俺は、名前の頭を一度撫でてやる。すると気持ちよさそうに目を細めながらも彼女はやっぱり困った顔をする。……結構追い込まれてるみたいだな、なんて思いつつも、そんな姿も可愛いなんて卑怯だなぁ、とうぬぼれたりもする。夏受験を控えた俺たちは一緒に勉強をしているわけだけど、どうも不安そうに顔をしかめる名前は相当緊張しているらしい。


「大丈夫だって。名前なんだし」
『……え、どういうこと』
「だって、俺が好きになった子なんだ。受験如きに負けるわけないし」
『さ、さりげないプレッシャーなんだけどっ』


嬉しいけどさ、とぼそりと呟いたのを聞き逃さず、俺はその頭を引き寄せ一瞬のキスを落とした。顔を真っ赤にしながら口をパクパクする名前は本当に可愛くて、ああ。駄目だ。勉強どころじゃなくなりそうだ。思わずもう一度口付けて、その額に自分の額をぶつける。


「大丈夫。俺がいるだろ」
『っ、うん』
「自分を信じるから自信なんだ。名前が名前を信じないでどうするんだい?」
『そ、うだよね』
「それに」


そこで言葉を切った俺を不思議そうに見上げ名前は首をかしげる。君のそういう無垢な態度に俺は何度振り回されるんだろうな、とかぼんやり考えながら微笑んだ。


「もし駄目だったとしても、将来は俺のお嫁さんっていうことは決定事項なんだから、気にしなくてもいいよ」
『うん、……って、ええっ!?』
「いやなの?」
『いやっ、じゃないけ、ど』


それに、いつも頑張っている名前なんだから大丈夫だよ、なんて意味をこめて「一緒にがんばろ」と台詞をこぼすと、名前は少しばかり自信に満ちた顔をした気がした。


「受験終わったら、遊園地にでも行こうか」
『ほんと?』
「だから、その前に栄養補給」
『ん?』


そしてその小さな唇にそっと唇をよせて、次に目を合わせたときには彼女の照れたような幸せそうなそんな笑みが見れたら、俺はそれだけで受験なんて簡単に乗り越えられそうだ、なんていうのは俺だけの秘密なんだけどね。





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≫美智様

もしかして、以前コメントくださいましたでしょうか…?
うわ、違ったら申し訳ないのですがっ。同じ方でしたらリクエストまでしていただけて嬉しかったです!
夏の受験というののイメージがあまり浮かばずなんかぐだぐだになっていたような気もしますが、幸村君が傍にいてくれたら受験だろうとテストだろうと乗り越えられそうだと思う管理人です。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
今回はリクエストありがとうございました!






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