柳蓮二は頭が良い。 生徒会での働き、発言、考案、その他諸々そりゃ凄いらしいし、クラスでもテスト前だけに限らず常時勉強をして、成績優秀。 テニスの練習や試合している時、それに本を読んでいる時、どれも真面目な顔してるけど、彼にいたってはいつだって澄ました顔でさらりとこなす。 ……まあ……確かに幸村も、頭がいい。ああ……そういえば前に、なんでそんなに頭いいの? って聞いたら、「お前とは頭の作りが違うから」って言われたのをちょっと思い出したじゃないか……! あいつは、頭が良いんじゃなくて、要領が良いとか、ずる賢いとかそんな感じだっ!! 大体、今、生徒会室で柳の手伝いをしなきゃいけないのも、幸村が「少しは柳の手伝いでもすれば、頭も良くなるんじゃないかな」とか言って……その挑発に乗って……しまって。ああああっ、なんか悔しいっ!!! 「渚#、百面相はそろそろやめたほうがいい」 『っ!!』 言われたままに顔をあげると、そこにはどこか楽しげな柳の顔。 しまった。今ので確実に、私は変な人決定。 「心配するな。お前が普通の人と少しズレていることはすでに知っている」 『えっ……』 「……精市の言っていた通りだな」 『……何て??』 「お前はからかいがある、と」 なんて失礼な彼氏だ。 彼女のことをどういう風に伝えてるんだよ。まあ、幸村らしいっちゃ幸村らしいけどさ。 「こうも言っていたな」 『何っ?!』 「渚に着せるナース服のサイズがちょうど良いものが見つかってよかったと」 『なっ!!!! あんのっ最低助平変態魔王っ!!!』 「嘘だ」 『……………………柳の嘘は嘘に聞こえない。もうっ、柳も幸村も最低っ』 確かに柳は頭がいい。だけど、最近では幸村とグルになって私をいじめてくるから、酷いと思う。昔は、もっと。 「柳は昔はもっと優しかったのに、とお前は言う」 『……先に言うな』 「心配しなくてもいい。お前を虐めることは生き甲斐だ」 『何を心配しなくてもいいのか分からないんだけど!!!』 もう、これは最低だ。というか最悪だ。柳はもともといじめっ子だとは思っていたけど、今はまさにジャイアンなんて比じゃないくらいだ。 そんなことをぶつぶつ考えている途中。不意に顔がかげった。 目をあげたそこに、見えたのは柳の顔。 うわあ、相変わらず綺麗な顔。この人は、和服美人って言っても過言じゃないよね。髪もサラサラだし、テニス部のくせに色白だし。…………ってか近い。近い近い。 『や、柳っ!?』 「ん??」 『ん?? じゃないから!! っち、近いっ』 「嫌か??……渚」 『嫌か、じゃないからっ!! 何考えてんのっ?? とにっ、とにかく、ちっ』 近い、と単語を言い切る前に、生徒会室の扉が、ガコンと大きな音と一緒に埃が舞う。 『ゲホっ、な、何事っ』 「…………器物破損罪というものを知っているか精市……」 「生徒会室の扉が脆いからいけないと俺は思うな」 『ゆ、幸村っ?』 彼は、かつかつと歩いてきたかと思えば、椅子に座っている私と、何故か私に急接近してきた柳を見た。 『な、何、幸村』 今すぐ体に穴が開きそうなんですが。……あれ、なんか黒いオーラ出てるような気がするけど、気のせいだよね。気のせいであって欲しいんですがっ。 「……校庭20周と、腕立て伏せ200回どっちがいい??」 『とりあえず、どちらもキャンセルで』 「お前に決定権があるわけないだろ。校庭30周と腕立て伏せ3000回どっちか選びなよ」 『おかしいでしょ!! っていうか、さりげなく回数増やしてるし!! 腕立て伏せにいたっては、桁が増えてるし!!!!』 この魔王は、頭は大丈夫だろうか。私は柳の仕事を手伝うために頑張っていたというのに、あまりにも酷い仕打ち過ぎる。 かといって、反論したら恐らく私の命は無いのだろう。 選択肢を選ぶしかない状況をパニクりまくっていたら、くつくつとした柳の笑い声。このやろっ。 『ひゃっ!!』 「変な声出さないでくれるかな。落とすよ」 落とすよ、じゃなくて。どうして私は今、幸村にお姫様抱っこされているんだろうか。 全く理解不能なままで脳内をぐんぐん巡らせてみたけど、全く理由が分からない。 『何っ? 幸村何事っ?? ってか離して馬鹿っ』 「煩い。このまま職員室行ってほしいわけ??」 『すいません。ごめんなさい。って違うからっ!!!』 なんで、私が謝ってんのよ。私、何一つ悪くないし。 だけど、この場で落されるのも困る。どうしたものか、とうんうん考えていると「顔、変だよ」と一言。 『最低っ、柳のほうがもっと優しい言い方だった』 「……やっぱり走らせようか」 『な、なんでよっ』 「どうせ蓮ニと話してニヤニヤしてたんだろ? 二人きりで生徒会室なんかでこっそり何してるのかと思えば。まあ、俺には全くもって関係ないけど、色気も無いのに蓮ニを渚につき合わせたら蓮ニが可愛そうだろ?」 『魔王。やっぱ柳のとこに帰る』 「……校庭500周」 ちょっと柳のこと話しただけなのに、なんで私が……あれ。 話して……怒って……あれ。それに、柳が顔を近づけた時に入ってきて。 あれ……もしかして、幸村は、柳に。 『……焼餅?』 「発音がおかしいよ。それに、違うから」 『柳にヤキモチ妬いたの?』 「やっぱり、職員室に行こうか」 『嫌だあああっ!!』 そのまま、廊下に出た幸村の腕の中でバタバタしていたら、「重い」って言われた。 結局私が連れて行かれたのは、テニス部の部室で、何故か知らないけどタオルたたみを手伝わされた。あれ、私、マネージャーじゃないんですけど。 後日。朝練が終わって教室に向かっている幸村を、上から隠れながら見ていると、柳がぬそっ、とやってきた。 「昨日は、面白いデータをとれた」 『なにが? 幸村が扉を壊したデータ?』 「そんなもの誰が必要とするのか俺には理解できないな」 データマンならなんでも知りたいんじゃないんかい、と突っ込む前に、柳が耳元で。 「あのように焦る精市も新鮮だな」 『焦ってた?』 「少なくとも、俺がお前に近づいた時の精市の殺気は半端じゃなかった」 待て。待て、待て。待て待て待て待て。柳、あんたもしかして。いや、もしかしなくてもっ。 『もしかして、データのためにわざと私に顔近づけたりしたわけ?!』 「さあ」 頭はいいけど、大分腹黒い気がするのは私だけでしょうか……。 涼しげな顔をしながら柳が教室を出て行くのを睨みながら、仁王が前に言っていた言葉を口にした。「うちの参謀怖いね、だっけな」 だけど、もし幸村がヤキモチを妬いてくれてたのならば、ちょっと私も得したな、なんて。 |