久々に風邪をひいた。

頭痛が酷いし、鼻水が引っ切りなしに鼻の穴からこんにちはしている状態。
眠くもないのに、しばらく寝ときなさいと言われたから横になっているものの、逆にきつい。確かにいつもの倍は寝れるし、ごろごろ出来るのはいいけど……。



『やばい……頭、痛い』


痛い。痛い。体熱くてたまらないし、なんか分からないけど泣きそうになる。
鼻水がダラダラなせいで、ティッシュが手放せ無いし、なんか……どうしよう。
そんなことを考えながら、ぼんやりと携帯電話を眺めていると、それが、点滅していることに気づいた。
私が寝ている間にメールか電話が来たのかもしれない。急ぎの用事じゃなきゃいいけど、と携帯を開いた。そこで、意識も飛んだ。


額に感じるひんやりとした温度。そのあとに、何か柔らかい感触がいたる所に触れた。
瞼は重く、ひどい頭痛に悩まされながらもゆっくり薄っすらと目を開けた時。蒼い髪。蒼い……?



『あ……お??』
「誰がアホかな」
『ゆき……む、ら』


なんで。幸村がなんで此処にいるんだろうか。ああ、夢か。きつくて夢の中に幸村を出しちゃったのか私。
それにしても、幸村がこんなに優しく頭撫でてくれるなんて、幸せな夢。普段の魔王幸村じゃ考えられないくらい。すごく、素晴らしい夢だ。



『ありがとー……ゆっきー』
「……寝ぼけてるだろ」
『ゆきむー……』
「まさか、わざとかい??」


頭を撫でながら、幸村の声が少しだけ怒ってる。なんか分からないけど、夢だろうと謝らないといけない。機嫌を損ねた幸村はとてつもなく恐いしめんどくさいから。
頭を撫でる指をなんとか、指で重ねて触れる。そして思わず触れた体温に謝罪の言葉は消えた。
冷たいひんやりした指。


『きもちいね……ゆき、むらの手』
「渚……??」


やだ。そんなこと考えてたら、なんか涙が出てきた。なんで。なんで。ただ、ただ溢れる涙でますます頭は痛くなるし、だけど止まらないし。


『ひっく、っく、ゆきっ、むっ』
「……泣くなよ。辛い??」
『ごめっ、だっ、てっ』


自分でも分からない。
ただ、幸村の眼差しが妙に優しくて、愛しくてたまらない。


『ゆきむ、らっ、ゆきむらっ』
「……ずっとそばにいてあげるから。安心して寝ていいよ渚」 
『本当……??』
「俺にうつしてもいい。だから……早く治しなよ」


掠れた声音にも気付かないほどに急に睡魔が襲う。幸村の手をゆっくりと握ると、柔らかい感触がまた頬と額とに掠めた。 

翌日、目を覚ました時に見えたのはただの私の部屋で、幸村はいないどころか、いた形跡さえなくてやっぱり夢だったのか、と考えていた時に、ふと気づいたメール。



『これ以上無理したら……』



どうなるか分かってるよね??
……嗚呼。私は再び布団に体を横たえて、苦笑混じりに幸村の名前を呼んだ。
夢か現か。
どちらにしろ、会えてよかったなんて、風邪の時は意地さえはれなくて困ったものだ。





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