「幸村君、好きですっ。彼女がいるって知ってるけど、好きです」


……こんにちは。その、彼女です。いやはや。私の彼氏様である幸村はそれはもう恐ろしいくらいにもてる。バレンタインなんて、えっと……127個?あれ、それは前か。去年なんて、机にチョコレートが山積みされていたのを今でも覚えている。
それだけじゃない。
彼の誕生日なんて、なんの宗教か、ってくらいみんなそわそわして、幸村の名前を口にしているくらい。
……まあ、その人が私の彼氏であること自体がおかしいのだけど。
そんなことを考える私の手にはゴミ袋。そう、ゴミを捨てに来た先で、ちょうど通りかかった告白現場。
まさかそれが幸村だとは思わなかったけど、何故か、相手が幸村だと分かったと同時に体が動かなくなった。……俗に言う。あの、そう。イップスか。いや、間違えなくそうだ。
現に、幸村は私がここにいることをどうやら気付いているらしく、私にむかって何か意味深な笑みを向けてきたのだから。
ああ、絶対に後から何か言われる。「盗み聞きとか、いい度胸してるね」とか言われて、けちょんけちょんに言われそうだ。

私の将来のことを考えて、憂鬱になりかけていたとき、女の子が、何も言わない幸村に痺れをきらしたらしい。



「そ、そんなにいい人なの?」
「なにが?」
「幸村君の彼女っ……」



嗚呼、すごく切ない。
私がふられるわけじゃないのに、私がいるからこの子はふられるって考えただけで、申し訳ない。
……大体、幸村も幸村だ。
私を彼女にするなんて、見る目がない。



「俺の彼女はね、正直に言うと君とは真反対の人なんだ」
「え」
「すっごく、意地っぱりで俺のことちっとも頼らないし、それにまず、俺に対して愛想とかまずない。ツンデレとかじゃなくてあれはもうツンツンだね。デレが出たら、宝くじに当たった気分になる」



なんだなんだ。私の彼氏様は私のことを真っ向からけなしているじゃないか。
た、確かに、幸村の言っていることは、間違ってないんだけど!
相変わらず、体は動かないけど、どうにかその場から逃げてやろうと必至こいて体を動かそうとしていた時。



「でもね、あいつじゃないと駄目なんだ」



澄んだ声。すごく、すごく綺麗な声。私が、大好きな、大好きな……幸村の声。



「渚のどこが好きか、なんてもんじゃない。渚じゃないと俺は駄目なんだよ」



やめてよ。やめてよ。
そんなこと、言われちゃったら。私も同じだって今すぐ叫びたくなる。
やっと動くようになった体は熱く火照っていて、幸村が遠くから私にむけて、くすり、と一つ笑った。



『馬鹿』



次に口を開いた時は、砂糖一欠けら分くらい、幸村にデレてしまおうかな。

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