息が冷たい。
これは、息を吐いているだけで私が凍ってしまうんではないか、と結構焦っていると、隣に歩いていた蒼髪の少年は「馬鹿じゃないの?」と一言。
そりゃ確かに、君なんかよりは随分と成績も悪いけれども、馬鹿とは酷い。私だって、好きで馬鹿をやっているわけじゃないのだ。
……というよりも、好きで馬鹿をやっている人って、芸人以外で存在するのだろうか。


「……相変わらず、そういうこと考えるところが馬鹿だよね」


悪びれもせずに言った彼氏様こと幸村は、相当呆れた顔で私をじっとり見ている。



『な、勝手に心読まないでよね!』
「勝手に読まれるお前が悪いよね」
『私が?! あんたが、勝手にっ』
「は?」
『………………馬鹿魔王め』


ぼそりと呟いたら、頭上に容赦のない拳骨が飛んできた。
仮にも私は君の彼女なのに、いったい何をするんだ、と非難たっぷりの目で訴えたものの、幸村には痛くもかゆくもないようで、すました顔で再び前を見ている。


『寒い』
「へえ、渚って皮下脂肪があるから暖かいんじゃないの?」
『最低幸村。今、全国の女の子敵にまわしたよ』
「何言ってるんだい?俺は、お前しか名指ししないけどね」


ああ、なんなのこの卑屈男っ!
私は、わざと白い息を吐きながら「寒いアピール」をしようとも考えたが、なんだか悔しく、ポケットの中にいれておいたカイロに手をやる。


「ポケットなにが入ってるの?」
『……幸村は寒くないんでしょ?』
「お前と違って皮下脂肪ないぶん身軽だからさ」


何を言い出すかこいつは。真っ黒な笑みをにこにこさせながら何も言わずに私のポケットの中に手を突っ込んできた幸村の手を阻む暇もなく。


『あ、私のカイロっ』


所謂恋人である私たちは、今二人で道を歩いているわけだけど、練習が急がしい幸村が私と一緒に学校に行くなんて言い出したから何か裏があるに違いない、とも思った結果がやっぱりこれだ。
どうせ、昨日の練習で赤也君とかがまた何かやらかして、私にそれをぶつけたかったんだ。そうじゃなかったら、彼女のカイロを奪ってまで暖をとる彼氏がどこにいる。


「別にいいだろ? カイロも俺に使われてきっと喜んでるよ」
『自意識過剰男っ! なにが神の子よっ! 魔王の子で十分っ!!』


やったぜ。言ってやった、とどことなく達成感に満ちた5秒後。
なにも、返事が無い事に少々あせり、さすがに魔王はいいすぎたかもしれない、とちらりと幸村を見つめた。……が。


『ひゃああっ』
「うあ、色気ない声」
『ゆゆ、ゆきむらぁっ!』
「ん?」


ん、じゃなくて。そんな決め顔しても無駄だからっ。幸村は、すごく綺麗な笑みを浮かべながらも、冷たい指先を私の首根っこに押さえつけている。
おかげで私は変な声が出るし、冷たいし、鳥肌たつしで散々だ。
しかし、そんな私の気なんて知らず、というか理解する気もないだろう幸村は、さんざん私の首に冷気を送り込んだ後に、にっこり。


「寒いなら、もっと寒い事すればいいと思ってね」


俺、すごく彼女思いだね。なんて王子様スマイルをぶん殴ってやろうかとおもいつつも、そんな笑顔にもどこか「キュン」ときてしまうところを見ると私は、もう末期症状。
気がつけば、首は熱くなってしまった。








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