久々にテニス部のメンツで集まるから来ないか。 そのメールにどうやって返信するものか少々悩んだ。そもそも私はテニス部の関係者ではないし、ただ精市と付き合っていたというだけで彼らと同等の扱いを受けていいものかと思うのだ。だけど、折角誘ってくれるのだから、と私はカバンを片手に待ち合わせ場所の真田君の家に向かった。 彼の家に着くとそこには懐かしい面々の顔。 「おー! お前なんか雰囲気変わったじゃん」 「先輩ますます美人っすよっ!」 『みんな久しぶりだねー』 真田君と柳君は一流会社に就職。この間は上司と間違われそうになった、と苦虫を噛み潰した顔をした真田君には思わず笑みがこぼれた。柳生君はお父さんの病院の後継者となるために日々新米先生として多忙らしい。ブン太はパティシエ。結局大学卒業後に有名店に弟子入りしたって聞いたときは驚いた。ジャッカル君はお父さんと一緒にお店の切り盛りをしていて、赤也君は消防士になりたいみたいで必至に勉強に奮闘している。 『で、仁王君はモデル、ねぇ』 「今からサインでも書いちゃるよ?」 『あはは。うん、でも精市もすごいもん。サイン頼んでてあげようか?』 「……言うようになったの」 『まあね』 みんなが団欒と話している。私のことも昔からの旧友のように接してくれるこの人達はやっぱり素敵な人達だ。 私も精市が海外に行った後で、夢だった教諭を目指し、この間無事採用試験に合格した。精市にそのことを電話で報告した時のことを不意に思い出して、嬉しいような……少し寂しいような気分にさいなまれる。 彼がいないといけない場所なのに。彼がいない。 「精市が行って、もう三年、か」 不意に話をふりながら私の隣に座った柳はまた少し大人びた。うん、とだけ返事をしたのだけどきっと彼には他のことなんて分かっているんだろうな、なんて考えた。もう三年なのか、まだ三年なのか。私にはわからない。彼はいつ帰ってくる、なんてことを約束して行ったわけじゃないから。確かに留学は三年だったんだけど、どうやら現地で気に入られたみたいで、帰るのはいつになるか分からないみたい。電話越しの彼の声は少しばかり沈んでいた。 「ごめん……」 『謝らないでよ精市っ。……ちゃんと待ってるから』 「ふふ……心強い言葉だね」 確かに、寂しいという気持ちはある。でも不思議と不安にはならない。なんでかな、と素直にこぼすと柳の指が私の左手を指した。 「これのおかげだと思うんだ、とお前は言う」 『……ふふ、そうかも。ずっと、一緒にいてくれてる、って思えるもん』 彼が指したそこにはシンプルなデザインの指輪。帰ってきてから結婚指輪は買いに行こう、と言った彼がくれた私の宝物。ちなみに首には、ホワイトデーに貰ったネックレスをつけているからいたるところに精市を感じる事ができる。不安にならないのは、きっとそのおかげなんだね。「お前達はお互いに離れていれば素直なのだがな」そんな皮肉を笑いながらこぼした柳に「その通りかも」と答えながら私も笑った。 確かに寂しいときはあるけど、左手に彼はいるから。一生会えないわけじゃないから。だから、彼が帰ってきた時に思いっきり不満なりをぶつけてやるんだ、くらいの気持ちでいる。いつの間にか自分がこんなに強くなっていたことには驚くけど。 「愛の力、ってやつじゃのう」 「あまりからかうのはよろしくないですよ、仁王君」 『そうかもね。愛の力、かもなぁ』 「うわ、デレデレすぎだろぃ」 「こら、丸井っ、箸で人を指すなっ!!」 次に会えるときはお前の苗字が変わっていることを祈るぞ。そんなことを囁いてくれた柳に、そっと頷いた。 自宅に帰って誰もいないその空間に「ただいま」を言って、私はいそいそとレターセットを用意した。桃色のレターセットとお気に入りのボールペンを持つ。 さて、なんて書こうかな。今日みんなに会ったことを書こう。それから、朝ごはんの玄米パンが美味しかったことも書く。嗚呼それと、体を大切にして、っていうことを書いて。ううむ。それに食事のこともちゃんと書かないと。結構ああ見えてズボラだったりするからな。御飯はちゃんとバランスを考えてくださいね、とかでいいかな。メニューとかも今度調べて送る事にしよう。 書くことを頭の中でまとめ終わったあとで、私は一行目を書き始める。 『えっと、……精市へ』 お元気ですか。私は元気です。 うーん、いつもどおり過ぎる。そんなありきたりすぎるその文章の下に、今回は少しばかり私の気持ちを乗せようとおもって、私は深呼吸をしてその一文を書いた。 『……よし』 拝啓彼氏様。 私は相変わらず。 貴方のことばかり考えています。 次に会えたときには照れ隠ししながらも、大好きだって気持ちをその目を見て言えるように、そんなことを祈りながら封を閉じた。 〜end〜 |