テニスサークルに入った彼氏様と対照的に私はいまだに悩んでいた。いや、精市には「勿論テニス部入るんだよね。というか入れ。お前のことだからテニス出来ないから無理、とか言うだろうけど、マネージャーくらいは普通の人間だったら出来るよね?」とか言われたことは言われたのだ。それこそ、マネージャーも楽しそうだなあ、とか思った。自分の好きな人の頑張っている姿を近くで見たいな、とも思った。だけど、そんな淡い期待を抱きながらこっそり見学にいったテニスサークルで見つけてしまった。
精市の隣に立つ。美人な、美人なその人を。


「あー、あれだろ、高校の時の女テニの部長。あいつすっげー美人だよな」
『最低ブン太』
「意味わかんねえしっ」


同じ学科のブン太と二人でぼんやりとカフェテラス。ブン太は相変わらず甘党で、お砂糖がたっぷり入ったようなイチゴ牛乳を飲んでて私はその反対側に座って、某会社のレモンティーを口にしている。幾分か大人びたブン太は、しょっちゅう色々な人に声をかけられては、アイドル並みのスマイルを振りまいている。あー、やっぱテニス部怖い。


「で、なんで入らねえんだよ、幸村君が誘ってくれたんだろぃ?」
『……だって。だってさ』


あんな仲が良い二人を見たら、入りたくなんてない。
その言葉が喉まで出かけて私はとっさに唇を噛んだ。嫌だな。人のことを羨むだけの美貌があるわけでも特技があるわけでもないのに、精市の隣で立って微笑んでるあの人の姿を見たら、嫉妬しちゃう自分が嫌だ。
女テニの部長さんが、高校生の頃からすごく綺麗で気前が良くて、誰からも頼られるような存在の子だったのは知っていた。それに、精市と仲が良いのもさりげなく知っていたんだけど。実際にあんな風にコートの中で話す二人を目の当たりにしちゃった時に、自分が哀れで仕方なかった。
そのまま黙り込んでしまった私の気を知ってか知らずかブン太は「お前も充分いい女だぜ」なんて慰めてくれた。きっとブン太はこうやって優しいから女の子にモテモテなんだろな。

ブン太と別れてから講義に出て、あっという間に時間は過ぎた。どうしよう。なんだか今日は精市に会いたくない。なんか、今会ったら、醜い気持ちをぶつけてしまいそう。そうは言ってもサークルをどうするかをまだ悩んでいる状態で。嗚呼、どうしようどうしよ。なんて考える。いいや、今日はとりあえず買い物にも行かないといけないしメールで断ろう、と肩を落としたとき、不意に名前を呼ばれた。


『え?』
「……覚えて、いるか?」


そこを見ると黒い髪。切れ長の瞳。すらりと伸びた身長。私のことを捕らえて離さないその視線を私は忘れたことなんてない。でも、頭がついていかなくて、困る。
あれ、嘘。なんで。


『カズヤ、さん?』


カズヤさんは昔よりも大人びた表情で頷くと私の所へ歩いてきた。
まさか、まさかこんな所で。

初恋の人に会うだなんて。





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