……あれ、デジャブ?
誕生日を迎えた俺の周りにはあいつの姿はなくてまた女子の姿。ちらりと遠くを見た時に目が合ったから、いらっときて思わず「馬鹿」って言ったら、あいつは相当憤慨してた。
そんな態度とりたいのはこっちなんだけど。

そのまま放課後まで話しかけてこないし、俺は俺でプレゼントを断るので必至で、気付いたら部活だ。部活のみんなが例年通り部室で祝ってくれて、もう部長じゃないのにありがとう、って笑って……それでも頭にはあいつから「おめでとう」って言ってもらいたかったって想いがあふれてて、溜息をついた俺の耳に蓮二が一言。


「そういえば、新任の教師とあいつが一緒にいたという情報がはいっているぞ」
「……は?」
「おおかた資料整理だろうが……二人きり、だな」



早く行かないとまずいんじゃないか?
蓮二は「貸し1だ」なんて笑うけど、もうそんなところじゃない。大体俺はあいつのためにどんだけ必至に走ってるんだろうか。……でも、変な奴の手に触れられるくらいなら俺が走った方が百倍ましに決まってる。

暗い廊下を走りぬけ、蓮二が教えてくれた資料室に向かい思いっきり扉を開けて、そのままあいつの手をひっぱって走り去った。

だいたい、俺という彼氏がいながら、他の男と二人きりになるとか喧嘩売ってるのかなこいつ。だから、だいぶムカついて頬っぺたを抓ってやる。
痛い痛い言ってるその表情をぼんやり見ていた、が。



『ごめんなひゃい』



そう言いながら謝ってくるとか、本当反則すぎる。可愛過ぎて、思わず何かが反応しかけたんだけど。思わず顔を逸らして、手を離して、顔が赤いのがばれないようにした。
とりあえず無防備にポカンとしているから嫌味を言ってみることにした。



『……え、とゆ、きむ……』
「どうして受け取ってくれないんですか、幸村先輩っ、って俺が何回言われたかわかる?」
『……はい?』
「幸村君、受け取って欲しいの。お願い、って見たくもない女子の潤んだ瞳を何回見せ付けられたかわかってる?」




お前がくれたらよかったのにね、とか小言を付け足してやってもよかったけど、それより前に鈍感な俺の彼女は、どうやら俺がプレゼントを受け取ってないのに気づいたらしい。その素っ頓狂な顔が可愛くて、おもむろに頬を包み込んで、その瞳を見つめてやった。



「お前はいつもそうだよね。俺の気なんて全く知らないで勝手に拗ねたり意地張ったり。あーあ、俺はどうしてお前を彼女にしたんだろうね」



お前を、好きだからに決まってるだろ。
それは俺の口から出た本音で、唇でその白い頬に優しく触れていた。
甘い。甘すぎて、全てがどうでもよくなる。少し乾燥した俺の唇と、柔な肌。

かと思えば、俺の可愛い彼女は、とっさにカバンの中に手を伸ばし、赤くなりすぎた顔を隠すようにプレゼントを突き出していた。俺は、「……なにこれ」なんて言いながら内心、心臓の音が一つ高鳴った。顔が緩むのをばれないように、怪訝そうに眉をひそめる。

すると彼女は、必至になって半ば強引に俺の腕の中にそれを渡しこんだ。そして、「リス、リストバンドっです、そのっ、あ、の、幸村くっ、違う、幸村に、プレゼント、でっ」なんて、なにこの生物可愛すぎるんだけど。




「……どもりすぎだし、なんで敬語で言うわけ」




そう言わないと、食べてしまいたくて、必死に自分を抑えこむ。耐えろ。耐えろよ俺。「だ、だって、幸村が、ゆ、きむらがっ」とか言われつつ、その様子をしばらく見て、何も言わずにそのプレゼントを受け取るとおもむろにプレゼントの包装を解いていく。



リストバンド。
俺の髪の色をした、蒼いリストバンド。俺のためだけに選んでくれたそれ。そう思うと、あいつの前に手首を突き出していた。



『えっと、なに。そんなに近づけなくても見えてるし』



その声音が、あまりに愛おしくて、思わず漏れた台詞は、「蓮ニが言ってたんだ。選手にプレゼントを渡す時には、その物に『精一杯頑張ってください』って気持ちをこめないといけないんだって。つまり願掛け。
それも誠心誠意こめて、その人が最大の力を捧げないといけないんだって」なんていう作り噺。
あー、後から絶対蓮二に馬鹿にされる、とか思いつつも、誕生日なんだから、これくらいは望んでも許されるんじゃないか、そう思って。

あと少し動けばそのリストバンドとチューしそうな距離になったのを見計らったように声を低くし、口づけを促した。



『……ま、まさかだと思うけど、まさかこれにキス、しろ、と……』



答えは聞いてないよ。
だから、好き、なんて言葉は望まないから、せめて口づけくらいは構わないだろ?

可愛くて、愛おしくて、だからこそ虐めたくなる。俺だから仕方ないよね。「……お願いだから、どっか違うところ見てて」なんて言われてもやめられるわけないし。その顔が、世界一好きな男に言う台詞じゃないよね。

なんて心と裏腹に口は憎まれ口を叩いてるけどね。
すると、大きく息を吸い込んで、目線をそらしながら。



『せ、せい、ち……。テニス、応援してるから、その……頑張って!』




そしてぶつけるようにそのリストバンドにキスをしてきたから、おもわず、「まあ、頑張ったご褒美くらいはあげるよ」とか言い、優しく額にキスをした。
赤くなる姿をけらけらと笑っていたその時、突然胸にタックルをかましてきた俺の彼女は、叫んだ。



『精市おめでとう!! お誕生日おめでとうっ!! あああっ、もうお願いだからこれ以上私の心臓壊さないでっ!』




その台詞に、反射的にとも言えるスピードで、そのまま痛いくらいに抱きしめて、「着替えてくるから、部室まで一緒に来て。というか来い馬鹿」と早口で囁いて、そのまま、彼女の顔を一回も見る事もなく、部室へとぐいぐいと引っ張っていった。

やばい。いまのはきた。最高のプレゼント過ぎて、呼吸が乱れそうだ。

腕をグイグイ引っ張っていると、「幸村、おめでとう」ってもう一度言われて、これ以上止まりそうにない鼓動を早まらせるなよ、とか思いながら、「煩い」と返してやった。

素直すぎると、我慢できないだろ、馬鹿。


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