いつの間にか、私は彼のことを精市と呼べるようになっていました。
……というのも、まあ精市が「次に幸村って呼んだら、大学中にお前と俺のキス写真を貼りまくるからね?」とか馬鹿馬鹿しいこと言ってきたからであって。いや。こいつならしかねない、とか考えた結果、私は毎日毎日練習に練習を重ね、やっとのこさ彼のことを精市と呼ぶことに成功した。

そのときの彼のドヤ顔といったら、なんともいいようがないほどのものだったのだけど。

そんな私達だけど、同じ大学に入学したとはいえ、毎日会うわけでもないし、以前より会話する回数は減ったと思う。
だけど、その分、とあるものが増えた。
というのも。


「ん? 渚か?」
『あ、柳』
「久しいな」
『そうだね』



違う学科に行った柳は、高校生の頃と比べるとまた少し大人になった。
綺麗な顔立ちはますます綺麗になっているし、学部での先輩たちからの人気ぶりも高いものだ。風の噂では、既に数人の先輩から告白を受けたらしいし。


「それを言うならば、精市も同じようなものだ。高校時の3倍だな」
『……え、ああそうですか。そうですよね』
「……嫉妬か?」
『っ、ちっ……が……違うこともないこともない、けど……その……別に慣れたというか……』
「ほう、彼女に見捨てられた彼氏か」
『な、なんで見捨てた事になってんのっ』
「……ふっ」
『……からかったわけね……』



柳は「まあそうむくれるな」とか言いながら不意に目線をカバンに落とした。
バイブ音からして、メールが来たのかな? なんて考えていると、私の携帯も揺れだした。
こ、この音。
この揺れ方。唯一設定を他の人と変えているこの揺れ方は。……ま、ま、違いない。
柳も同じように携帯を開いているから、私も、と思い開いたそこに。


『『蓮二をたぶらかさないでくれるかな』……ってっ! はっ? どこ居るのっ』


あたりをきょろきょろと見回すも、そこはただの廊下。それに精市は今、講義があっているはずで……。
嗚呼、恐ろしい。

……そう、会話することは減ったけど。それに比例して増えたのは、メールの回数。これはもう義務化されているのか、というくらい毎日送られてくる精市からのメール。
時折、まるで近くにいるんじゃないかってくらいリアリティにみちたものがくる事もあるから怖いんですが……。

すると、携帯から私に目を向けた柳が問う。



「精市か?」
『私が柳をたぶらかしてるって思ってるらしいよ。……あの神の子は、どんだけ私のことを信じてないんだか……。もう、これって果てしなく私彼女として思われてないよね』
「……そんなお前にいいものを見せよう」
『へ?』


首をかしげる私の前に、差し出された携帯の画面。そこに表示されたその文面に、果てしなく体温が上がった気がした。

「可愛いからって近づきすぎ」

嗚呼、もうヤダ。精市はずるすぎる。






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