大学生になりました。

と言っても、高等学校からの進学だし、知り合いも多いから、苦労していることも特にない。

だけど、今まで制服登校だったのが、私服登校になったり、授業が選択だったりと今までと変わる中、何故か私はどうやら危機に陥っているようです。


「ふふ、余計なこと考えるのやめてくれるかなあ、ウザいよ」


いや、そのウザい彼女を壁に追い詰めてるのは何処の魔王様なのかな、と勿論聞けるわけもなく、とりあえずため息をつくと、今度は、舌打ちされた。

あれ、なんか怖いんですが。

ばちばちと目線を飛ばしてくる親愛なる彼氏様は、大学生になってますますイケメンになりました。

今日の私服は、薄いピンク色のカーディガンに、白いシャツ。そんな単純な格好なのに、どうしてか、幸村が着るだけで、何処かの雑誌に載ってそうだ。

……じゃなくて、幸村がかっこいい、とか何を恥ずかしいことを言ってるんだよ私は!
とにかく、この状況を打破しよう、と思い頬をひくつかせながら、口を開き……。


『駄目、や、やっぱり言えないっ』
「却下」
『やだ! 別に今まで通り『幸村』でいいでしょ!』
「却下」


あああ、今日は初めてレポートが出て、それを早く終わらせようと考えてたのに!
幸村は、私が「精市」と呼ぶまでこうする気らしい。

いくら、ここが大学の校内のあまり人が来ない処だとしても、いつだれが来るか分からないし。
だけど。呼びたいっていう気持ちもあって。
気恥ずかしさを取り外すほど大人ではなくて、ぎゅう、と目を瞑ると、深いため息、それと。


「いい加減にしないと、襲うよ」


腰にまとわりつくくらいの色めいたこえがして、反射的に身体が跳ねた。ああ、もう知らない。


『そ、それは勘弁、してくだ、さい。せ、せい、いち』


振りしぼって言うと、その合図と共に小さな口づけがおでこに降ってきた。しかしながら、同時に離れていく体温。


『え、あのゆ、じゃない。せいい、』
「早く、帰りなよ」


それだけ言って彼は、スタスタ歩いていきました。

そうやってまた君は、私を混乱させるんだ。
……精市のばーか……なんて。


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