※ホワイトデーの後に卒業式というカオス設定ですがそこは目を瞑ってください。



中高大一貫の立海では、高等学校の卒業式なんてあってないようなものだ。だけど、他の大学に進学したり、もう働いたりする人がいたりとなんとなく切ない気持ちはぬぐえない。

まあ、私と仲良くしてくれた友人とかはほとんど同じ大学に進むから、泣いたりすることはないんだけど、それでもやっぱりこの制服を着て会うのも、もう最後かって考えると……。


『ちょっと、寂しいかな』
「そうっすよー、先輩っ」
『赤也君』



赤也君は目を真っ赤にしながらぐずぐず鼻を言わせている。
ああ、そっか、また赤也君は置いてけぼりなのかって考えたら、私はまだ好きな人と一緒にいれるから幸せかもしれない。


『……って、す、好きってなにちゃっかり私でれてんのよっ』
「……あの、先輩?」
『あああ。気にしないで赤也君』
「うっす。……それにしても、幸村部長知らないっすか?」


あっちだよ。と何も見ないで指をさす私を不思議そうに見ながら赤也君は首をかしげる。そこに運よくか悪くかブン太が来た。


「おい、渚、お前いいのかよぃ」
『……なにが?』
「幸村君、告白されまくりでどうにかなっちまうぞ」
『……』


そう。卒業式が終わった途端これだ。幸村は、「ボタンください」やら「ネクタイください」やら言われてて、それを遠目で眺めながら私は無言で幸村の前から離れた。
嫌だよ。私だって、卒業式は幸村と写真取りたいな、とか柄にも無いこととかも考えてた。
だけど、私は大学でも一緒にいれるけど、後輩の子達は一年間会えないわけであって。


「渚先輩だけの幸村先輩じゃないんですっ」
『そう、そう言われて…………に、おう君』
「当たりじゃー」


にへら、と笑う仁王君は、なんだかボロボロで、前のブレザーボタンはすべてないし、挙句の果てにカッターシャツのボタンまでない。……なんか、目に毒。
確かに仁王君ファンは勢いがすごいから、納得は出来るけど。

そういえば、ブン太もよく見ればそんな状態で、(さすがにカッターシャツのボタンはあったけど)やっぱりテニス部はもてるんだなあ、と小さく関心した。



「関心している場合ではないな」
『あ、柳。……君は無事なんだね』
「俺を誰だと思っている。仁王のような無様な姿にはならない」
『……なんか、仁王君がかわいそう』


柳は本当に綺麗なまま。まあ、柳なら「すまないが、これは渡せないのでな」とか言って断ってそうだもんな。
そんなことを考えていたら、遠くから柳生君とジャッカル君と真田君が歩いてくるのが見えた。
あれ、なんだかみんな集まってる。
……みんな、じゃないか。

ちらりと見た先の幸村はやっぱり女の子にいっぱい囲まれているし。確かに幸村は私だけの幸村じゃない。
偶然幸村の気まぐれで私が彼女になったに決まっているから、他の子たちに「独り占めしないで」って言われたら、それに応じるしかない。
……縛り付ける権利もないし。


『よし、じゃあ私帰るかな』


見てるのが辛くなって、そう言うと、真田君が少し青ざめた。


『……真田君? 顔青いよ?』
「い、いや。かまうな」
『……いや、本当に青いって』
「き、きにしないほうが、い、いいぜ渚!」
『ブン太までそんなに焦ってどうしたのよ』


というか、なんだかみんな冷や汗をかいている気がする。唯一普通の反応の柳に「みんなどうしたの?」って聞けば「腹でも下したんだろう」と一掃された。なんか、適当にも程がある。

だけど、みんながお腹痛いのに流石に私が帰るわけにもいかないかな、とか考えていると、不意に名前を呼ばれた。
振り返るとそこに、涙目の女の子。もしかして、ここにいる誰かに告白しにきたのかな? と思い、体を避けようとした瞬間。


『っ!』
「渚っ」



柳の声につられるように、頬に痛みが走って、気付いたときには私はしりもちをついていた。


「てめっ、渚先輩になにしやがるっ」
「落ち着けって赤也!」


え、あれ。もしかしなくても。私。今、ひっぱたかれた?
仁王君からすでに両腕ロックされてるその彼女は動けないのだけど、そのままの体勢でわんわん泣きじゃくりながら私を睨みつけてきた。


「あんたなんかっ、なんであんたなんかがっ」
『……えあ、の』
「幸村君なんかにふさわしくないっ! ぶさいくっ! なんもできないくせにっ」


……まあ、なんか当たってるから否定できないな。っていうか、ほっぺ痛い。そのままで「ごめんなさい」と言うと「先輩は謝らなくていいっすよ!」っていう興奮した赤也君の声と。

急に低い声になった仁王君のその表情があまりにもゾクリ、とくるものだったから、私はそのまま頬の痛みさえ気にしないで立ち上がって、仁王君にその子を離すように頼んだ。彼は、小さく息をつきながらもそっと手を離した。

 
『ごめんね。……でも、私を叩いても、その……』
「っ、なによっ。……なぐさめっ?」
『そういうわけじゃないんだけど……』
「なによっ……大学も幸村君と同じだからって! 私はあんたなんかよりも幸村君に似合う女になるんだから! あんたなんかすぐに愛想着かされるんだから!」


……まあ、そうかもしれないなあ。と頷いていると今度はくつくつという笑い声。隣を見ると、柳が笑っていた。 


『……なんで笑うのさ』
「いや、お前の魅力に気付けずに可哀相な奴だと思ってな」
『……や、柳?』
「……と、お前は言う。……違うか精市」
『え?』




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