朝教室に行くと、私の机に『2階の渡り廊下に来てください』の紙キレ。もしかして、幸村ファンの子が私に恨みでもあって、呼び出しされたのか。

私の彼氏様はいかんせん顔がいいからか。あー憂鬱。今までも何回か呼び出しくらったけども、その度になんか都合よく誰かが来てくれたんだよなー。
この間は仁王君、その前は柳生君にその前は……。なんて考えながら歩いていると、パタパタと走ってくる姿。


「あ、渚先輩」
『おはよう赤也君』


こんなとこで何してんすか?? って言う赤也君にさっきのことを説明してあげると、何故か赤也君が青ざめた。


「……い、行くんすか?!」
『うん』
「はっ?! だって、それって呼び出しじゃないっすか!!」
『だって待ってるのに行かないなんて酷いじゃん』


そう言うと、赤也君は「律儀すぎっすよ」とか小さく呟くと、何かをぶつぶつ言った後で、勢いよく私の手を掴んできた。
ごつごつした指先が、触れて。赤也君は、大声で叫んだ。


「先輩がイジメられるのは嫌っす!!」
『へ?? あの……赤也く……いっ、イジメって……。だって幸村と付き合ってる私に当たりたくなるのは……』
「じゃあ、俺がぶっ潰します!!」
『なっ、なんでよぉっ』


そう言うなり私の手を引っ張ったままで、今度は、私が向かう予定だった2階の渡り廊下へと走り出す。速い、ってかまずいっ!!
何気に広い背中に、赤也君も立派な男の子だ、なんてのんきに考えている場合じゃないっ。


『ま、待ってっ、赤也君っ』
「大丈夫っす!  顔は狙いません!」
『そういうことじゃなくてねっ!!』
「じっ、じゃあ、赤目にならないように頑張るっす!!」
「アハハ、もうすでに赤目だけどね」
「仕方ないっすよ!! だって、渚先輩がっ……え……」


ぴたり。赤也君の動きが止まった。そして私の手を掴んだ彼の指がダラダラと大量の汗を流す。って、ちょっと待って……。


「幸村部長っ……」
「課題を出してくるのは許可したけど、それを持ってくるのは許可してないよ」



それ、って私か。魔王め。一応あんたの彼女だし。


「煩いよ。赤也を返せ」
『取ってないし!』
「ひっ、ひいっ!!」
『あ、赤也くーん』


走り去ってしまった赤也君に、一応「ありがとねー」と言っていると後ろから空手チョップ。痛い。しかも何故に叩かれた!?


「イジメられそうなお前のためにわざわざ来てやったんだから、ありがたく思いなよ」
『いや、頼んでないし』


ってか、なんで知ってるわけ。そのまま私の額にデコピンした幸村は、辛子色のジャージを翻す。何も言わないけど、その背中がなんだか、頼もしくて。


『赤也君を怒らないでね』
「……早く教室行きなよ」



小さな声でありがとうと返したまま、熱い頬を押さえた。赤也君の背中も広かったけど。
幸村のはもっと広かった、多分。





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