「ブン太、覚悟しなよ?」 「うわ、ちょ、な、なんでだよ幸村君っ」 幸村が教室に置き忘れてきたらしい筆箱を探しに教室に行ったけど、結局幸村の机の中には筆箱なんかじゃなくて、手紙が二通ほど。 さすがにラブレターの中身を読むほど無粋じゃないから、とりあえずそれを手にして部室に来たらそんな声が聞こえた。 なんか、部室の中のガム少年が限りなく危ない気がする。 「なんで? ふうんそんなことも分からないのか。ああ、いいよ、大丈夫。痛みなんて感じないくらいの恐怖をプレゼントしてあげるから」 ……ってか、危ない。 私の大切な友人の一人のブン太が、死ぬ。魔王に殺される。 今の幸村の言い方だったら、確実に煮たり焼いたり好き放題やっちゃうけどいいよね、のしゃべり方。 『ちょっ、幸村っ! ブン太は焼いても煮ても美味しくないよっ』 止めに入るために部室に入ると、そこには顔を真っ青にしたブン太と、真っ黒オーラ幸村。え、ちょっと待って。幸村こっちに来るんですが。 『ゆ、幸村っ』 「なに」 『な、なんで今度は私に真っ黒オーラなのっ』 「煩いよ」 一言で片付けた幸村は、私のことを一度じい、と見てきた後に、がしりと私の頭を掴んだ。 怖いんだけど。このまま私が煮たり焼いたり、まさか蒸されたりするんじゃないかっ。確かに皮下脂肪はついているけど、美味しくないよっ、って言ったら逆に怒られちゃうかな。 どうしよう。どうしたら許してくれるかな。……っていうか、私何も悪い事してないじゃん、なんて思いつつもとっさに思いついたのは手の中にある手紙。 『ゆ、幸村、これ、手紙っ。筆箱はなかったけど、筆箱っ、分からなくてごめんなさっ』 「当たり前だろ。筆箱は俺のバッグの中にあるんだから」 『はっ!? じゃあ、なんでわざわざっ』 「そんなことよりもさ」 そんなことより?! 私がわざわざ歩いてひーひー言いながらも幸村の教室に行ったっていうのに。そんな私の気も知らず、幸村は冷笑を一つ。 「ブン太」 『……は?』 「ブン太はブン太で、なんで俺は幸村? お前ふざけてるでしょ」 何を言い出したかと思えば。 拍子抜けした私は、首をかしげる。 『……だって、幸村は幸村であってるでしょ?』 「……」 何を言ってるんだろう幸村は。 全くもって意味が分からないんだけど。端っこでブン太が「お前馬鹿かよぃ」とか言ってきたけど、馬鹿は幸村でしょ。なんで今更ながらにそんなことを言ってくるわけ。 「ああ、わかったよ。そうだね。俺が悪かったんだよね。そうだよね」 『え、いや、だから、幸村が何を言いたいのか分からないんだけど……』 「なんだっけ? 手紙? はい、頂戴」 手を差し出してきた幸村に素直に手紙を渡すと幸村はますます不機嫌になってしまった。 え、もしかして持ってこないほうがよかったのかな。それとも二通じゃ満足いかなかったのかな。 そんなことを思っている間に、幸村はその手紙をロッカーにしまいこんで、スタスタと部室を出て行ってしまった。 なんなんだ。結局なんで怒ってるのか聞けなかったじゃないか。 「……なあ、渚」 『なにブン太? あ、大丈夫だった? 可哀想に……幸村も最低だねー』 「いや、ゆ、幸村君は、お前が俺のことを名前呼んでることに怒って……」 『は? だから幸村を幸村って言ってなにが悪いわけ? 間違ってないよね? もー、ブン太までそんなこと言って』 「……ああ、お前やっぱり俺より天才的」 幸村君を怒らせる、だけど。 とぼそりと言ったブン太が、練習終わりになった時にはゾンビみたいにヘロヘロになっていて、「お前が出した被害者だな」と柳にくつくつ笑われたのはその後の話。 ブン太も、変なこと言い出すんだから。 本当に天才的なのは、私の彼氏様なのにね。 なんて。心では言えるのにな。 |