◇跡部さんと

 


跡部さんとの……か、……かける? かなんか知らないが、先輩はそれが一番好きらしい。



『あのね、まずはもう、部長と次期部長っていうその主従関係がいいよねっ!』

「しゅっ……しゅじ」

『それに、若は基本受けだけど、跡部君には下剋上しようとして、頑張っちゃうのがすっごくいいと思うよっ!もう、必至になってるのに、簡単にあしらわれて、でもそんなところにもちゃんと愛情があってね!』

「……」

『ああ、もう素敵っ。若と跡部君のこと考えるだけで、私絶対空飛べるわっ!』



もう、勝手に飛んでくれ。まあ、久木先輩が、何を好きだろうが、結局は俺が餌とされてしまうのは避ける事ができないらしいが。
だいたい、未だにそのカケルやらが俺には理解できない。まるで掛け算の公式のように先輩はその単語を発するが、俺としてはどこをどう理解すればその公式じみたものが解読できるのかが分からない。まあ理解する気はさらさらないが。しかし、先輩が何か熱く俺にそれを訴えてくるものだから、嫌でも覚えてしまうのだ。


「はっ、で? 俺とお前がベストカップルってことか」

「背筋が凍るので止めてください」


ついでに言うと絶対この人は楽しんでいる。
昼休み。普段なら、有意義な時間。そんな時間にどうして俺はここにいるんだろうか。
跡部さんは、生徒会室の自分専用のイスに優雅に座りながら、喉の奥でくつくつと笑っている。
跡部さんは久木先輩と同じクラスのためか、どうやらあの人から俺のことを事細かに聞いているらしく、それを楽しそうに俺に話してくる。「今日はお前と宍戸の関係について学ばせてもらった」「は?」「お前も苦労してるな、しかし鳳という存在も、存外恋愛には障害としてつきものだからな」「え、いや、あんたバカですか」「はっはっは。まあ精々下剋上してみろ日吉」「あ、もういいです」そんな会話を何度繰り返しただろうか。
まあ、どうせ俺ははカラカイの材料でしかないのだろうけど。

とにもかくにも、俺の彼女が所謂「腐女子」という部類に分類されることを跡部さんは絶対的にイマイチ理解していないはずだ。だいいち、庶民の暮らしぶりでさえインターネットを使用して調べるくらいだ。どちらかといわなくても、俺の彼女であるあの人は、この間、跡部さんが調べたものの履歴を調べて、なにやら楽しそうにしていた忍足さんと同じ部類なのだ。

たとえば「アンソロジー」とか「受け」とか「攻め」とかそんなマニアックな単語を完璧に理解していたら、怖い。というか、そんな跡部さん見たくない。下剋上もしたくない。まあ、この際だ、と思い俺はため息交じりに声を落とす。



「跡部さん。あの人どうにかしてください。気が散って練習できません」

「はっ、マネージャーなんだから仕方ねえだろ」

「はっきり言って目障りです」

「彼女の前こそ力が出るだろう」

「どちらかといえば妨害されています」



ああ、これは完全にからかわれている。そう思いつつも、俺は顔をしかめた。



「で? なんのようです」




そもそも俺が此処にいるのは、なにを隠そう跡部さんに呼び出しされたからなのだ。そうでもなければ、誰が好き好んでこの生徒会室に来るものか。



「日吉。よろこべ。俺様がお前と写真をとってやる」

「……………は?」



既に跡部さんの部屋と化している生徒会室に足を運んだ時から少々嫌な予感はしていたが。跡部さんの何かを企んだ笑顔を見た時。しまった、と思った。



「お前の察しの通りだ。ちょっと協力しろ」

「嫌です。どうせあの人絡みでしょ」

「可愛い彼女のお願いだろ」

「貴女の彼女じゃないでしょ?言う事聞く必要ないと思いますよ」



というか、跡部さんに何を頼んでいるんだあの人は。跡部さんをこんなことにつかうなんて、あの人なある意味で最強だ。「なんだ? やきもちか?」「わかりました。撮ればいいんでしょ」「素直じゃねえな」なんて軽口をたたかれると少々イラつく。
なんだか、跡部さんは楽しそうに俺と自分をカメラに閉じ込めながら口にしたのは。



「若。お前も随分かわいい彼女をもったな」

「……は?」

「お前のことを語るあいつの顔は存外嫌いじゃねえ」



この人までおかしくなってしまった。なんて、口が裂けても言わないでおこう。

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