◇とある俺の毎日

そもそも、俺が「受け」とか言う言葉自体理解できなかった頃に戻りたい……。
大体自分の彼氏と他の男をくっつけて楽しむ彼女がこの世にいるなんてことを俺は生まれてはじめて知ったわけだ。いや、知らなくても生きてこれたからな。
だからこそ、彼女が特別だと感じるのか。いくらオカルトが好きだとはいえ、俺。今回は少し違う気がするぞ、と自分で自分に言い聞かせる。


「あの、久木先輩」

『ちょっと、若静かにして』



いや。
静かにしてもなにも、ここはテニス部の部室なんだけれども。
この間ある意味で不法進入してきた久木先輩にあれほど突然入ってくるなと言ったはずなのに。この人の両側についているのは、餃子か何かか。もしかして、見せ掛けで、本当は聞こえていないとか……。



『嗚呼、もう、若が話しかけるから、せっかく若と鳳君のいいネタが浮かんでたのに分からなくなったでしょ!』

「どこから突っ込めばいいんですか!」

『突っ込むって、それは若の……』

「言ったら学校の外に出します」

『その前に、鳳君とのツーショットを!』



跡部さんの次は鳳? 俺は一体、何人と関係を持ってるんだ。
……じゃなくて。危ない。俺まで久木先輩に毒されているところだった。俺は、部室で靴紐を結びながらこれからテニスをするというのに、げんなりとしていた。俺の彼女は、俺を被写体として小説を書いている。たしか……アンパン、じゃない。アンソロジーとかいう単語を言っていた気がする。それに、小説やら夢やらと面白い単語を連呼しながら、アクセス数がどうやらこうやら。
まさか、俺の小説を作っているのか、と尋ねたら、『大丈夫。若の攻めもあるから』と安心させられた。いや、安心しようがない。
俺が知らない所でなにか不正なことをされてないか大分心配だ。というよりも、この人が道を踏み外さないか心配だ。



「……まあ、もう踏み外してますけどね」

『ん? なにが』



……。嗚呼、イラつく。



『若、これ書き終わったら、チューしよ?』

「嫌です。俺は練習に行きます」

「えー、意地悪。今度、意地悪な若と受けな忍足君書いちゃうよ」

「止めて下さい。背筋が凍る」




俺を跡部さんとくっつけたり、鳳とくっつけたりするくせに、なんでこの人はこんなに可愛いんだろうか。大きな瞳を楽しそうにきらめかせて、俺の名前を読んだ先輩は、俺の頬をふに、と押した。

先輩の柔らな指の感触がこそばゆくて、目を背けてしまうと、くすくすと小さな笑い声。たまにこうやってスキンシップをしてくる久木先輩は、ずるいと思う。
ああ、そうか。
この人のこういう所が好きで、だから所謂「腐女子」と自分で豪語しているような変態彼女に付き合っているのか、と今更ながらに気付いて、それでも自分が馬鹿らしくて。
結局、一番悪いのは、先輩をこういう世界に引きずり込んだ奴だ、なんて他人のせいにしそうになる自分に懺悔してみようと思う。

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