◇敢えて言おう

冬の時期にカップルが増えるのは、一人で過ごすクリスマスは何がなんでも避けて通りたいという主張の現れだと、先日テレビの下らない特集で言っていた。
別にクリスマスなんて、ただの25日で、それ以上に浮ついた気分にもなれない。……と言うと、まるで俺が、クリスマスをあと1ヶ月後に控えたというのに彼女がいないことをひがんでるように聞こえるかもしれない。

自分の名誉のために言っておく。……俺は決して寂しい男なんかじゃない。強がりなんかじゃなくて、俺にはそれこそ全校生徒が承認した相手がいる。
……いや。全校生徒は承認じゃなくて。


「俺への押し付けだ」

『えっ?? 若なにっ??』


突然聞こえた声。


「うわっ、貴女何処から湧いて出たんですか」


先程まで、一人きりだった部室の中に音もたてず現れたその人は、残念ながら俺の彼女。いや、この人も黙っていたら、そこそこモテるはずだ。

肩まで伸びた髪は、少し癖混じりで、風が吹くたびに揺れているのは贔屓目なしに可愛い部類に入ると思うし、眼鏡をかけているくせに大きな瞳は、くるくると動いて、見飽きないし。

とにかく意味も分からないのによく笑うし、何言われても、全く嫌な顔一つしない。そんな久木先輩に惚れて、思わずうっかり告白をしてしまったのが3ヶ月前の昼休み。
購買部のヤキソバパンを買いそこねて、異常なほど落ち込んでいた先輩を不覚にも可愛いと思って、気づいた時には、口が滑っていた。……そして今。
ひどくそれを後悔するはめになるとは思いもしなかっただろう3ヶ月前の俺。
そんな俺の溜息を知ってか知らずか、久木先輩は大きな瞳を俺に向けてなにやら微笑んでいる。

いや、撤回。
にやついている。


「……久木先輩。また俺を先輩の妄想材料にしてますね」

『違うもんっ!! 妄想じゃなくて、そっ……想像だもん』

「ああ、そうですか。では、その想像とやらを俺でしないで下さい。あと、勝手に写真を撮るも禁止です。プライバシーの侵害で訴えますよ」

『いいでしょっ!! 別に私しか見ないんだし!』

「よけいたちが悪いです」



とりあえず、また写真を撮るためにカメラを構えていた先輩のデコを人差し指ではじいてやった。
先輩の奇妙な妄想の被写体=俺。まさにありえないこの方程式。
大体、この人は、黙っていればいいのに、口を開けば何やら意味が分からない言葉の羅列だ。
この間なんて、跡部さんと話していただけで、卒倒しだしたこの人を俺はどうして彼女にしたのだろうか。



『なんでよっ……なんで分かってくれないのっ……』



すると久木先輩は急に眉を潜めて、ぎゅう、と唇を噛み締めた。
ああ、まずい。こうなったら……この人は暴走しかしない。



『もう知らないっ!! 若なんて、跡部君に捨てられて、傷心な所を宍戸君に慰めてもらっているとこを鳳君に見られて波乱になっちゃえっ!!』

「なんなんですかそれ!! なんで跡部さんや宍戸さんや鳳が出てくるんですか!!」

『だって!! 私の浪漫だもんっ!! 若はオールラウンダーの受けなんだもん!!』



ああ、頭が痛い。
だからこそ敢えて言おう。
俺の彼女は立派な腐女子であると。








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