◇結局好きですが何か
頭に血がぐわんぐわん集まりだして、気付けば仁王さんの腕をぎりぎり握りながら、久木先輩を反対側の手で自分に引き寄せた。
その体が小さくて、付け加えいつもの先輩ならば「若ってばだいたーん」とか言うだろうに、大人しく俺の腕に収まってくれた。
「なんじゃ、お前さんはこいつの……」
「彼氏です。というか、勝手に人の彼女に手を出さないでくれますか仁王さん。とっかえひっかえするのはかまいませんが、他を当たってください」
自分でも驚くほどイラついている。それは、先輩に俺以外の奴が触れていたから、という完全なる嫉妬心で、それが俺の中でぐるぐる回って吐き気がする。
そのまま、仁王さんが、にやりと意味ありげに笑った時に、柳生さんが「からかうのも大概にしたまえ仁王君」と言葉を発してくれて、其れを合図に俺は先輩の手をひいた。すれ違いざまに幸村さんに挨拶をすると、事情を察したみたいな顔をした幸村さんは、「お似合いだよ」とか言って微笑んだ。全てを知っているのか、と問いただすか、それとも仁王さんのことを責めるか。いや、先輩を無防備にさせたのは俺の不注意だし、幸村さんに突っ込んだら余計なことまでばれてしまう。そう考えた俺は、そのままイライラしたままで立海を後にした。
無言で揺られるバスの中。
先輩は黙り込んでいて、だけど俺が握った手を離さずに静かに縮こまっている。
それが幾分か続いた時、不意に聞こえた声。
『わ、かし?』
「なんですか」
『……好きだよ?』
「なんで疑問なんですか」
そこまで言って視線を感じて、じい、とこちらを見つめる眼鏡の奥の瞳がキラキラしていて。仁王さんと柳生さんを見る目とは少し違う、俺のことを想ってくれているその視線に、胸が熱くなる。ああ、もう知るか、とか思いながら、その唇に小さく唇を落とした。
『な、ど、どうしたの、わ、わかしっ』
「疑問があるようなので」
『っ、わ、わ、わー』
「うるさいですよ。黙ってください」
どうせ、学校に着いたらまた何時も通り煩いであろう久木先輩の手の温もりを感じながら、熱い頬を隠すように窓の外を向く。
貴女の笑顔さえあれば生きて行ける。そう素直に言える日までは、せめてもの想いをこめた口づけを交わすことしかできない俺もまだまだ下剋上には程遠い。