◇先行き不安だ

かくして、先輩と、一緒に立海へと向かうことになったその日。
誰の日頃の行いがいいのか、晴天。

久木先輩は、跡部さんの前では、なんともドヤ顔で『午後から、若を連れて立海の偵察に行くから!マネージャーとして、これは行うべきことだと思うわけ!』なんて言っていたが、本来の目的を知っている俺としては、ため息が止まらない限りである。

午前中で部活が終わったその土曜日。無駄にテンションが高い久木先輩を白々しい目で見やりながら、二人で電車とバスに揺られながら立海へと向かう。

王者立海。
全国区の中でも群をひいてすぐれた個性豊かなメンバーが揃うその場所。
その歴史は、青学によって落とされたとはいえ、彼等の強さは、未だ劣ることなどない。あわよくば、切原辺りと練習試合でもしてやろうか、と考えている俺の隣で。



『ああ、どうしよう若っ、28よ! あの28についにっ、対面出来るっ! この日をどれほど夢見てきたか若には分かる? まずは、あの二人がお互いに練習してる所が見たいわ、その時に、2人だけの会話なんてしてたら、イロイロ萌えちゃうわね! 私としては28でも82でもいけるんだけど、やっぱり……ちょっと若聞いてる?』

「聞いてません」

『もう、意地悪っ! でね! やっぱり王道なのは、』




煩い。いや、バスの中ということもらあって、声のボリュームは小さいのだけど、そういう煩いとは別の煩いだ。
そんなことをぼんやり考えるうちについたのはその場所。
バスを降りて少し歩けば見えた門に、心無しか身を引き締める。

そうだ。
今日は、表向きには偵察、なのだ。勿論無断で行うことを跡部さんが許すわけもなく、既に許可もとってある。知っておきながら、偵察を許可するその余裕に少々嫌味を感じるが、仕方ない。
彼等はそれ程に勝ちに自信があるのだろう。

そんなことを考えていた時。
不意に目の前に山吹色が見えた。風にはためく目をひく太陽のような下地と漆黒のライン。
まさか、立海大の三強と名高いうちの二人、部長と副部長が直々にお迎えとは。



「やあ、こんにちは。氷学のマネージャーさんと日吉君」

「うむ。話しは聞いている」

「やだなあ、真田。そんな言い方じゃ怖がられるだろ」

「む、そ、そうか」

「そうだよ。ただでさえ厳しそうな顔してんだからさ」

「す……すまん」



まずい。かなりまずい。
だってこの二人は俗に言う。 



『ゆっ! きさな、っ』

「せ、先輩! ほら、お願いしますって言うべきですよ普通は!」

『そうね。ありがとう若。私としたことが。本日は、お願い致します』

「いいよ。跡部からのお願いは、滅多にないから、珍しくてなんか面白かったしね。じゃあ、案内するよ」

「……はあ」




なんとか叫ぶ前に抑えることが出来たが、なんだか今ので十分疲れてしまった。

まだ、来たばかりだが。
ああ、先行きが不安でどうにかなりそうだ。




.






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -