◇28という単語は知りません

『若っ! 聞いてっ、なんとなんと生28が拝めるのよっ! きゃあっ、どうしようっ。今からぁ、カメラの準備と携帯のあ、録音もしたいわよね。あとあとっ』

「……はい?」

『だーかーらっ、立海のあの28を生でっ』

「だから、その暗号の意味を教えてください。どうせロクなことじゃないんでしょうけど」



げんなりとしたままで聞くと久木先輩はにっこりと満面の笑みをこぼしながら俺の肩をがっしりホールド。突然に近づいたその距離感に多少なりとも息を詰まらせながらも、肩を掴まれただけで顔を赤くするなんて日本男児にあるまじきだな、と思い俺はわざとらしく大きな溜息をついてみせた。そんな俺の気も知らずに久木先輩はルンルンと音を出しそうな勢いだ。



『立海の28ペアって言ったら、もう有名どころのCPなの。無難よね。私的には、似非紳士な82もお勧めなんだけどね。あ、CPっていうのはカップリングっていう意味なんだけどってことは前に話したかもしれないけど、それで、この間ね、若のグリップを見に店に行った時に、偶然仁王君と柳生君に会ったのよ!』



もしかして28って仁王さんと柳生さんのことだったのか。いや、それがどうして28とか82とかいう数字に変換されるんだろうか。いや、俺には理解したくもしようとも思わない事項だけど。しかしながら、先輩の話を順々に聞いてみると、どうやら久木先輩は一人で立海に行くつもりらしい。

まあ、黙っていればそこそこの顔をしているし、意味不明な単語を話さなければ一般人としての教養もあるようだし。そんな先輩が。…………一人で。あの王者立海に。

いや、別にこの人がどこに行こうと俺には関係のないことだし、この先輩が濃い青色の袋を手に持っていようと何処の店に行ったのかと問いただしもしない。実に知らなくてもいい情報だが、どうやら久木先輩にはその手の知り合いが多く居るようだし。……つまり、この人がどこに行こうと。



『どうしようっ、28の生写真とか見れるなら私なんでもしちゃいそうなくらい嬉しいっ』

「……は!? なっ、なんでも?!」

『まあ、死んでください、とか言われたらちょっと無理だけど、それ以外ならオールOKよ! 生写真のためなら、なんだって……』

「し、仕方がないですから俺もついていってあげましょう」

『え?』


馬鹿かこの人は。何が「オールOKよ」だ。仮にも一応おそらく多分女だということを忘れたのか。というよりもあんたは俺のかのっ……。もう知るものか。こうなったら何がなんでも、この人の暴走を止めるだけだ。
とにかく、はた迷惑な話である。






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