◇古武術とはなんなりか

ある日のことだ。
久木先輩が、図書室でなにやら必至になって上のほうにある本を取ろうとしていた。もともとそんなに背が高いわけじゃない先輩が、上のほうの本に届くわけがないから、三脚でも使えばいいのに。
どうせ、あそこに先輩好みの本があるに違いない。確か、先輩の好みである「BL」なる関連の本もこの学校にはあったはずだ。
……そんなことをわざわざ、調べた俺も俺だが……。

そして、小説のネタにする、とでも言いだすんだろう。今度は俺がどのように書かれるのか。前に、完成した作品とやらを見せてあげるとか言われたが、金輪際遠慮したい。なにが悲しくて、俺が他の先輩、しかもテニス部の先輩といちゃいちゃしている話を見ないといけないんだ。

……ああ、嫌なことを思い出した。先日の話だ。



『どうして、どうして真田君は駄目なのっ』

「……ついに、他校まで手を出したんですか……」

『真田君と若なら、いいカップリングよ! あ、でもね、幸村君という障壁があるけど、頑張ってね!』

「あなたは、まさかこの間の氷帝と立海の練習試合中そんなことを考えてたんですか」

『やだなあ、ところどころでちゃんと仕事してたって』



改めて、跡部さんにこの人をマネージャーから解雇させたほうがいいと申請しようかとさえ思った。

だから、先輩が困っていようと手伝うものか。困って、取れないほうが、俺のためだ。
その時、不意に見えたのは、彼女のことを見ながらひそひそ声で話している男子二名。



「なあ、とってあげたら、メアド交換してくれるかな?」

「え、俺が取ってあげようかな」



……ひどく面倒だが。あれに絡まれる先輩を想像したほうが面倒だったため、俺は先輩に近づいた。……足早に。



『あ、……って、若』

「なにをとろうと……」

『ちょ、駄目だって見ないで』



まだ内緒だったのに。
そう呟いた先輩が俺の手から取り上げたのは「古武術」と書かれた本。



『……だって、彼氏の頑張っているものくらい、知らないと駄目でしょ?』



……なんで、この人は時折こうやって……。ああ、もうやめだ。
こうやって変化球を投げてくるこの人にいちいち対応していたら、俺がおかしくなりそうだ。



「どうせ、小説につかうんでしょ?」

『うっ、……そうだけど、でも本当にっ』

「分かりました。それならそんなもの借りなくても、俺が教えてあげますから」

『え……』

「だから、ここ出ますよ」




そう言って、とっさに久木先輩の手を掴んでしまったのは、俺のほんの少しの想い。
そうやって、可愛い所を見せられたら、案外弱い自分をしかりつけながらも、この人が「ひいひい」言うまで基礎から教えこんでやろうか、なんて意地の悪い笑みを浮かべた。
            






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