一体どのくらいの時間その場にいたんだろう。
気がつけば外は暗く、校舎の中で蛍光灯がぼうぼうと光っている。もうすぐ警備員がここに来るだろう。それまでせめて動きたくない。いや……動けやしない。
何度か携帯が震えた。誰からの着信なのかは知らない。受け答えすることさえ今の私は拒否したかったのだ。とにかく頭の中が何も働かない。全ての情報を拒否したとしても、待っている現実は変わらない。そのままぼんやりと地面に座り込んだままで枯れた涙の跡が残る頬で薄く笑った。
一体、どこからが仕組まれていたんだろう。
母様が事件を起こすところから? それとももっと前から? 
私が会長になったことも、誰にも頼らずに生きていかなくてはならないと決めていたことも、全て彼らの思惑通りだったということだろうか。自分の意志じゃなく、彼らが人為的に植えつけた人格。
それと同時に、今の私に残っている道が一つしかないといわれている気がした。
みんなが愛していた過去の私はもういない。……いるのは、今の私。彼らによって作られたらしい私。みんなが優しくしてくれる価値なんてない。自分自身でさえ自分のことが分からないような存在。
ぼんやりとした意識の中で、誰かが私を呼んだ。


「玲華」


その声が輪郭を持ったその時、目の前に現れた存在に私は思わず目を見開いた。


『っ……あなた……はっ……』


嘘だ。嘘だ。
目の前に居るその人が、儚げに笑った。あの頃と、……同じ微笑で、笑っていた。「あの人」が、……今私の目の前にいた。まっすぐな瞳。優しげな声。
この人が本当に私が思っていた「あの人」かは分からない。だけど、不思議と確信が持てる。
思い出せなかったはずのその名前が、不意にこみ上げてきて私はそっとその名前を呼んだ。


『神原……さん……?』
「……綺麗になったね……玲華」


彼は私のことを慈しむようにそう言うと、そっと私の体を抱きしめてくれた。その瞬間、なにか暖かいものが流れ込んでくる錯覚を起こし、私は静かに涙を流した。何故だかわからないままで、涙を流した。










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