「ここはね、俺と玲華が初めてデートに来た場所なんだ」


ベンチに座りながら彼は微笑んだ。
どことなく切なそうに言うその姿に、私は無意識に心を痛めている。


『ねえ、幸村君。……教えて、ください』
「なにを?」
『……私の、……幸村君が知っている私のこと』


彼は、その台詞に少し怪訝な顔をした。


「……無理に思い出す必要はない」
『でも、私は知りたいの。……知らないと、いけないの』


だって、私自身のことだから。
そう続けながら、本当は私だって怖い。だけど、どうせ怖い思いをするなら何も知らないで、記憶がないことに怯えるよりも、現実を知って震えたほうが私はよっぽどましだ。
もう、たくさん泣いた。失った。無くした。だから、これ以上傷付いたとしても私は怖くない。だって。



『だって、私は一人じゃないって……そう、幸村君が言ってくれたから』
「玲華」
『怖い、気もします。だけど、そう言ってくれる人がいるだけで私はいい。……だから、お願いします』



幸村君は、そっと私の指に絡めていた指を離して、また私の手に指を絡めてくれた。「苦しくなったら、すぐにやめるから」優しい声だったけど、私を真剣に思いやってくれていることを知って、私は迷わず頷いた。一つ息を飲み込んだ彼は、ゆっくりと昔を思い出すように言葉を紡ぎだした。



「君と初めてあったのは立海中の入学式だったよ。君はすごく綺麗で、美しかった」


そうなんだ。私はやっぱり立海の生徒だったんだ。一瞬震えそうになった真実に必死に耐える。そんなの知らない。


「君と近づいたのは、君がテニス部に入った頃からかな。君は本当にテニスが上手でさ。俺もひやひやするくらいの実力だったんだ」

『本当に?』

「そう。だけど、テニス以外のときはすごく穏やかで静かな……そう、大和撫子みたいな女の子でね。影では男子に「聖母」なんて呼ばれててさ」


彼はその話しをしながら柔らかく目を細めた。昔の私のことを思い出してくれているのだろうか。彼の慈悲に溢れた瞳という、会話の節々に出てくる「穏やか」とか「静か」とか。そんな美しいものばかりだ。



「ある日、一緒に花壇を見ていたときに、君が不意に「綺麗だね」って言って微笑んだんだ。その瞬間……俺は恋に落ちたんだよ」


俺の一方的な片想いだったんだけど、君も俺のことを好きになってくれてさ。
そんなことを言いながら照れくさそうに微笑む彼は、その後で少し言葉を濁しながらも「そこで、事件が起こったんだ」とだけ答えてくれた。あまりにも信じられないことばかりで興奮する体を抑えようと思いとっさに口にしたのは「お手洗いに言ってくるね」なんて言う苦し紛れの言葉。彼は、頷いて微笑んでくれた。

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