結局あの後私を送ると言ってくれた幸村君の誘いを強制的に断った景吾につれられ私は自宅に戻ってきた。景吾の家じゃない。私が一人で暮らすために手にしたマンション。
景吾が私のことをおもってオートロックの警備体制がついたマンションを手配してくれたんだ。あーあ、結局は私は景吾のお世話になってるじゃないか、なんて今更思う。
もう、あの場所には二度と行けない。
父様と母様と過ごしたあの面影を感じることすら出来ない。


『……景吾。ありがと。今日はもう……』
「今日は泊まる」
『……へ? え、いや、いいよ。……ほら、家の人が心配し……』
「俺にとっての優先順位はいつだってお前だ」



さらりと恥ずかしげもなく言った景吾はジャケットを無造作に脱ぎ去ると、呆然と立ったままの私を姫抱きしてベッドに優しく落とした。そのまま私が抵抗する暇も無くシングルベッドにもぐりこんできて、抱きしめられる。
景吾の体が小さく震えているのを感じる頭の片隅で、嗅いだ香りが幸村君と違うな、なんてぼんやり考えた。
心臓の音が規則的に私に伝染して、あったかい。
いつだってそうだ。景吾は私のことを誰よりも大切にしてくれた。
あの事件のことも「お前のせいじゃねえ」って何度も言ってくれた。辛いことがあっても、景吾がいればなんだって平気だった。スカイブルーの瞳に、果てしないほどに依存していた。そして今も。きっと彼は自分を責めているんだ。じゃないとあの景吾が震えるなんてありえない。


『景吾……』
「……あーん?」
『……もう、いいよ』
「あ?」


私を抱きしめる景吾の腕が跳ねる。そして、暗闇の中で見つめられる。
アイスブルーのその瞳が、小さく揺らいでいる。
今まで何度も景吾に依存して、助けられて、支えられて。
それなのにまた私は景吾に頼ろうとしている。……だから。


『もう、私を跡部の人間と思わなくても、いいんだよ』
「……俺は別に跡部家の人間だからお前を助けてえと思ってるわけじゃねえ」


お前が単純に愛おしい。そんな理由じゃいけねえのかよ。馬鹿だな景吾は。私なんて、たいした人間じゃないのに。それなのに、温かくて優しくて。


『……景吾』
「ん?」
『……たとえ、跡部家に私の戻る場所が無くなってもいいの……。私が戻るべき場所に早苗が戻ることになったとしても、いいの。だけどお願い、私を……景吾の中から消さないで』


それだけでいいの。
他には何も望まないから。
そう言って困ったように笑うと景吾は「当たり前だろうが」と一言。


「俺がトップになったら、お前の居場所なんてすぐに取り戻す。それまでは……ここに俺が通ってやる」
『っ?! え、そ、そんな気にしなくても』
「俺がやるって言ってんだ。だが……」
『だが?』
「……これからは、幸村、のことも……頼れ」


景吾から他の男の子の名前が出てきたことに酷くびっくりしていると景吾は罰が悪そうに「お前は一人じゃねえってことだ」と言いながら私を抱きしめてくれた。

景吾、そういう不器用な優しさも、直球な感情表現も。大好き。大好きだよ。
そんな想いをこめて私は愛おしい従兄弟の胸に顔をうずめた。
確かに私は否定されたかもしれない。
だけど一人じゃない。
景吾がいて、氷帝のみんながいて。幸村君がいて、立海のみんながいて。
そして。


「玲華」


そう。私には。「あの人」がいるんだ。
ふわりと瞼の裏に浮かんだ笑顔に手を伸ばすように私は眼を閉じた。









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