『っ、くっひく……あああああっ』


悲しい、辛い、痛い。どれか分からないけどきっと全て。
否定されていたことは知っていた。義母が私のことを殺したいほどに思っていたことも薄々気づいていた。だけど、今、実際に数年前と同じ応対をされてしまったからなのか涙が止まらない。ずっと信じていた早苗があんなにも綺麗に笑うなんて知らなかった。私のことをこうやって傷つけるためだけにいたなんて知らなかった。知らないことが多すぎた私はなんて無知な人間なんだろう。
苦しくて、本当に消えてしまいたくなって、泣きじゃくって、でもそのたびに「大丈夫。俺が、いる」そう力強く抱きしめてくれる幸村君に何度もすがった。その背中に爪をたてるように抱きついた。その体を離さないように、抱きしめた。

何も知らないままですごしていれば幸せだったんだろうか。
ううん。そんなことはない。
きっとこうやって知ってしまう瞬間はいつの日か来たんだから、それが遅かろうが早かろうが関係ない。

だけど。
嗚呼、現実が痛い。

どのくらいそうしていたんだろう。
ゆっくりと力を抜いた私に合わせるようにゆっくりと体を離してくれた幸村君は、一度何か言おうとした言葉を飲み込んで私の額に口付けをした。


「……落ち着いた?」

『……ごめん、なさい』

「謝るなよ。……俺がしたくてしたんだ」


気がつけば周りには誰もいない。変わりに保健室には真っ暗な色が落ちていた。ぼんやりと幸村君を照らす白い月が私の視界にぼんやりと入り込む。泣きじゃくった瞼は重くて、きっと酷い顔をしているだろうに幸村君はひどく優しく微笑んで「愛してる」と零した。この人はどうして私が今一番欲しい言葉を言ってくれるんだろうか。愛してるなんてそんな陳家な言葉なのに、この人の唇から零れ落ちた途端に私のことを甘く優しく溶かしていくようだ。


「……まだ泣いてもいいんだよ」

『へい、き。……これ以上泣いても、現状は変わらない』

「……確かに君の言うとおりだ。だけど、辛いときに辛いと言えないことほど痛いことはない」


だから、俺にその役目をくれないか。
そう言いながら彼は私の頬を優しく撫でる。


「君が辛いときに支える役目に。君が苦しくてどうしようもないときにその涙をぬぐう役目に。……信じてくれなんて言わない」

『……どうして』

「え?」

『どうして、そこまで私にささげてくれるの?』


不安げにゆれる瞳の先で幸村君は懐かしい微笑みで私に答えをくれる。


「俺は、なにがあっても一生玲華を愛する」

『っ……』

「そう、君に誓ったから」


だから、なにがあっても傍にいる。
その声はあまりにも強くて、優しくて力強くて、今の私がこの世で一番欲しかった言葉。
私はその言葉を聴いてまた涙した。
そして、この人の傍にいたいと、そう強く思った。











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