いっそのこと消えてしまったほうが楽なのかもしれない。
そう考えてしまう愚かな私を誰か許して。

ゆっくりと瞳を開けたそこに映ったのは心配そうに私の顔を覗き込む幸村君。それと、私を囲むように立っている芥子色のジャージ。目を開けた、ということはどうやら私は気を失ってしまっていたらしい。つくづく弱い自分に吐き気がする。白いシーツと薬品の匂いがしていて保健室だと気づくのにはそうそう時間は掛からなかった。
だけど頭の中はいまだに混乱していて、何がなんだか分からない。
今さっきまであったことはもしかして私の頭の中で行われただけのことで、実際には現実とは異なるものなんじゃないかって。……そんなわけがないのに。
とりあえず分かることは、あの家に二度と私の戻る場所は無いということだ。そんな明確な答えが出てしまったからなのか、酷く乾いた笑いがこぼれてくる。


『そっか……そっか……』

「玲華……?」

『全部、そういうこと、だったんだ』


私を恐怖と絶望の底にまで陥れるためにこの数年間は与えられていたんだ。そう考えると全てが馬鹿らしくなってきて、私はからからと笑い出す。


『やっぱり、邪魔だったんだなー』

「……やめろ玲華」


幸村君が立っているのとは反対側からした景吾の声はすでに私には届かない。壊れてしまった玩具のように笑いがこぼれる。痛いのに、泣きたいのに、こぼれてくるのは笑い。
私は必要無かったんだ。この数年間も、私の力で生きてきたんじゃなくて、あの人の手の上で踊らされてたんだ。


『あははっ、だってさ、ほら、前から嫌われてたし、だから跡部家も出たし』

「やめろ」

『まあ、まさか早苗まであの人のシナリオ通りとは思わなかったなー』

「やめろっ」

『あーあ、いっそ、あの事件で私も死んでたほうが……』


パチン。
乾いた音が響く。私の頬から。


『ゆ、きむら、く』

「……ないよ……」


痛い。痛い。ゆっくりと目線をあげたそこには、私よりも険しくて、泣きそうな顔をして、手を振りかぶっていた幸村君。あれ、もしかして今叩かれたんだろうか。そんなことを考えているうちにぼろぼろと感情がこぼれてきて、どうしようも無くなってきて。


「いくら君でも……命を簡単に粗末にするような発言は許さないよ」


泣きそうな声で言いながら私を痛いほど抱きしめてきた幸村君の香りが私を包んだ瞬間。私の感情はリミッターを外されたように崩壊した。











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