いつまでも保健室で横になっているわけにも行かずに、簡易なベッドから起き上がり、早苗に声をかけた。早く、みんなに指示してあげないといけない。
動いた時にしゃらりと揺れる胸のブローチ。
みんなは、私を軽蔑しただろうか。それとも、心配したのだろうか。気になって仕方ない自分が恨めしい。
『早苗、立海の人にお礼を言ってくるから、皆を玄関に集めておいて』
「うん。……大丈夫、なの? 一人でっ……私も」
『平気だよ。それよりも、みんなのことをお願いしたいの。……いい?』
「任せてっ! ちゃんと、集めとく!」
きらきらと笑顔を振りまいてかけていく彼女の背中を見ながら心の中に黒いものが広がる。
嗚呼、やっぱり私駄目だ。
私じゃ、まとめることが出来ない。景吾みたいに、絶対的な統率力があるわけでもない。だからと言って、皆に支えてもらえるような人徳があるわけでもない。
それに付け加え、頭がぐちゃぐちゃで混乱する。泣きたいのに、泣いちゃいけない。
誰かに頼ることは、許されない。
私は、私の力で生きる事を決めたんだ。
あの、日から。私は。
「……もう、やめてくれ」
背後から聞こえた声に振り向く暇もなく優しく体を抱きしめられた。
ぎち、と音が鳴りそうなほどにきつく抱きしめられたのは、なんだか久しぶりな気がして、声がつぶれる。
「もう、これ以上……そんな顔をする君を見たくない。……これ以上、一人で傷付く姿なんて、見たく、ないんだ」
『……幸村、君?』
悲痛に満ちすぎた声は、何故だか私の心まで包み込んだ。
どうしてだろう。前にもこんなことが会った気がする。
曖昧に飛び火する記憶は定かじゃないけど、たった一つ確かな事。それは。
『……私は、君を……幸村君を好きだったみたいだね』
「え……」
緩んだ腕が私を離した。
私はその腕からするりと抜け出ると彼の顔を見つめ、その白い頬に手を滑らせた。
そう、遠い昔。いつだったかまでは思い出せないけど、私は彼の頬をこうやって包み込んだことがある。
『全部思い出したわけじゃないし、……これが本当なのかも分からないけど……だけど、君のことを想っていたみたい……だよ』
「っ……そう、か。……ありがとう」
幸村君は泣きそうに笑った。だから私も泣きそうに笑い返した。
ねえ、私達こうして向き合ったことがあるのかな?
でもこうやって見つめ合っていると、懐かしい気分になるの。
都合がいい、妄想なのかもしれない。だけど、この人の温かい眼差しを、体が覚えている。
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