顔色があまりにも悪かったのか、副会長である彼女は、今日の立海との交流会を中止にしよう、とも言ってくれたが、それは私の意地が許さない。

私は、笑顔を貼り付けたままで大丈夫とこぼしたが、彼女は酷く眉をひそめて「ごめんね」と呟いた。それを言うべきは私なのに、どこまでも優しく暖かい友人のそんなさりげない一言に心は癒された気がした。
東京から横浜までは、俗に言う観光バスのようなものでの移動。

バスに揺られながら見える景色にぼんやりと目をはせながら、なぜだか懐かしい気分になっていた自分が不思議だった。

事件があったあの日から、景吾はなるべく私を外部にさらないように配慮してくれた。
まあ、私もずいぶんと部屋に引きこもっていたのだけど。

その事件のことを思いだたびに、今朝の電話が頭をガンガンと犯す。誰がどんな目的であんな電話をしてきたのか。

確かに私は、まがいなりにも跡部家の人間にあたる。だから、跡部財閥に勝手なライバル視をしている企業が私を利用し、景吾を翻弄させる、ということも考えられる。まあ、果てしなくぜろに近い確率だが。

それならば、私が会長になったことに不満を持つ人間か?

だけど、電話の向こうの相手は、あの事件のことを知っていた。
ということは、景吾と私の関係も知っているのだろうか。

そうなれば、私が深く信用している早苗以外、担任以外さえ知らないその事実を知っている人間がいることになる。

早苗が、そんな簡単に他人に情報を漏らすような人間ではないことは私が1番わかっている。

あれは、私がこの学校に入学した時。事件があって以来、四天宝寺を転校した私は、通信教育で中学の過程を終え、見事明和高等学校に入学したわけだ。
どうしても、私には果たさなければいけない目標があったから。

しかしながら、久々に接する他人との距離に多少なりとも恐怖を覚えていた私に話しかけてきてくれたのが。


「ねえ、一緒に行こうよ」


それが、早苗だった。
彼女は、闇の中で眠る私にとって太陽みたいに暖かい存在で、何度も私を支え、助けてくれた。
辛い時は、此の手を握ってくれ、嬉しい時は自分のことのように喜んでくれた。

そんな早苗に私の過去を話したのは、私が会長に立候補する、と話した時。

事件のこと。私がどんなことを起こして、どれほどの人を傷つけたか。
景吾との関係。
そして。私が会長になりたいその理由。

彼女は、黙ったままだったが、その話が終わったと同時に私を抱きしめながら泣いてくれた。

ひどく、優しく、暖かいなみだだった。

あの日以来、私は早苗に絶対的な信頼をおいているし、彼女も私を慕ってくれている。




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